NOVELU
□アンバランス
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『アンバランス』
1)
テレビのニュース番組で、連日のように取り上げられるいじめ問題。
保護者代わりの身としては、気にならないわけが無かった。
「キラは、どうですか?」
テレビを見ていたキラは、サラダのキュウリをパリパリと軽快な音を立てて食しながら、口をもごもごさせて、こちらを振り向く。
「どうって…?」
「ですから、その…学校で苛められてはいませんか?」
心配そうに眉を寄せて、キラの鳶色の髪の間から覗く紫の瞳をじっと見つめてきた。
小動物を連想させる彼女のつぶらな瞳は、いつもキラのいたずら心に火をつける。
キラの学校での様子を知る者ならば、彼が苛められているなんて夢にも思わないものを、いかんせんラクスは普段会社勤めをしているので、彼の生活はさっぱり分からない。
ここに悪友のディアッカやアスランがいれば、腹を抱えて笑うだろう、と思う。
キラは、ニッコリと、天使の如き甘い微笑を浮かべて笑う。
「うん、大丈夫だよ、というか、僕はむしろ苛めてる方かな」
「えっ!?」
蒼い瞳は驚きに見開かれ、その言葉は、意外だ、という響きを持つ。
「―――誰かを苛めているのですか?」
「ううん、そんなことしないよ、冗談だよ」
即答して愉快そうに、口を曲げる。
「………」
からかわれたことに気付いたラクスは、頬を染めて、口を尖らす――が、すぐに大人気ない、と自戒して平静を装う。
いつも忘れてしまいそうになるが、彼はまだ高校1年生。
常にタメ口をきかれているからだろうか…キラと会話をしていると、時折、自分と同じくらいの年の頃と、勘違いしてしまいそうになる。
もともと整った容姿をしている彼だが、高校に入ってからはぐっと大人びてきて、ラクスは危うくときめいてしまいそうになるのだ。
「…なら、いいですけど…まあ、キラは仲の良いお友達も沢山いらっしゃいますし、大丈夫ですね」
「ちょっかい出されたら、1000倍返しだし」
味噌汁を飲みながらポツリと、呟かれた言葉は無視することにして、ラクスは安堵に微笑んだ。