NOVELU
□アンバランス
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「職場のストレスの方がすごいんじゃないの?」
キラの言葉にラクスは顔をあげ、箸を弄びながら、しばし考えてみる。
ラクスは某自動車メーカーの秘書課に勤務している。
確かに女性が多い職場で気を使うことも多いのだが、幸運なことに、今の秘書課は性格の良い人が多かった。
秘書課課長のアズラエル氏にしても、少々難しいところのある性格ではあるが、根本的には善人で。
隣のデスクは、親友ともいえるカガリだし、何の問題もなかった。
「ありませんわ」
「ふーん、それはよかった」
「…はい」
無関心そうなキラの様子にちょっと眉を顰めたのも束の間、ラクスはいきなり瞳を輝かせる。
「そうですわ!この間遊びに来たディアッカ君達はもう来ませんの?―――最近キラ、お友達を連れてくることが少なくなったので…寂しいですわ」
中学の頃は、休日や放課後にはよく友達が遊びに来ていたのに、高校生になってからはそういうことも少なくなった。
それもラクスが、彼が高校で上手くやれていないんじゃないかと、そう思った原因の一つだった。
「んー、会うときは外で会ってるから」
「……わたくし、お手製のシフォンケーキと、芳(かぐわ)しい紅茶を淹れておもてなししますのに……」
不満そうに、がっかりしてしおれるラクス。
――少々心が痛むが、仕方が無い。
だいたい、なんと言えばいいのだろうか。
「ラクスをあまり同級生に見せたくないんだよ」
「!!」
思わず漏れてしまった自分の言葉に、勢いよく顔をあげる、と――ラクスの視線とぶつかった。
その刹那、蒼穹の瞳が哀しく揺れた――
(あちゃー……)
迂闊な自分の言葉を悔やむキラだが、ラクスはすでに、誤解をしてしまっている。
その証拠に彼女の嬉々とした表情はすっかり失われ、涙を堪えながら、辛そうな表情を浮かべていた。
「あ、いや―――違くて……」
「いいんです!―――私、キラ達とは歳が離れすぎていますしね、キラが恥ずかしがるのも、仕方がありません」
無理に引きつった笑顔を作って、ラクスは首を振る―――けれども瞳が揺れて動揺は隠せない。
「この前もはしゃぎすぎてしまって……スミマセンでした」
とうとう涙ぐみ始めたラクスを前に、キラは途方にくれた。
――実はその逆で、ディアッカたちは「この前は楽しかった。次はいつ家に招待してくれるんだ」「イトコのお姉さまに会わせろ」と、連日のように机の周りで騒ぐ。
その度にキラは「うるさい」と、一蹴しているのだ。
何故、頑として家に呼ばないか、なんて―――分かりきっているのに、君は気が付かない。