NOVELU
□アンバランス
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「ああ!―――ドラマが始まりますわ!――キラ、早く食べちゃいましょう!」
ドラマなんて1人で見ればいいのに、ラクスは必ずキラと一緒に見たがる。
『だって、一緒に見た方が楽しいじゃありませんか!』
――――これが、その理由だ。
ラクスはいつも瞳をキラキラと輝かせて、自分の分のお手製のカクテルと、つまみを持ってくる。
キラは烏龍茶と決めているので、それを。
それが2人の、気が付けば習慣化されていたテレビの鑑賞スタイルだった。
そして今日――気分が落ち込んでいるであろう今でも、彼女はそれを忘れない。
いや、落ち込んでいるから、尚更、なのだろうか?
ガラスのセンターテーブルの上につまみと飲み物を載せて、ラクスはクッションを抱きしめながら床に座ってソファに寄りかかる。
ソファの上はキラが寝転がる。
これも、いつものスタイル。
お気に入りの俳優が出ているドラマを、目を皿のようにしながら熱心に見詰めるラクスの整った横顔をキラはそっと盗み見る。
(友達の目に触れさせたくないばかりか―――出来ることなら、ここに閉じ込めてしまいたいくらいだよ―――僕のラクス)
そんな彼の思慕を知ってか知らずか、ラクスはいきなり息を呑むと、大粒の涙を流し始めた。
「はいはい――ラクスは相変わらず涙腺が脆いね」
ラクスの桃色の頭を軽く撫でながら、ティッシュの箱を手渡すと、彼女は数枚取りだして、涙を拭い”チーン!”と、思い切り鼻を噛む。
「放っでおいでぐだざいな――」
「って、すでに鼻声だよ、ラクス…」
キラは呆れたように、でも親しみを込めて微笑む。
ちょうど彼と目が合ったラクスの動悸は速まり――そのまま視線を外してしまう。
なんて彼は綺麗に笑うのだろうか――紫の瞳は宝石のようにキラキラと輝き、彼女を正視できなくさせてしまうのだ。
「無防備なんだよね――もう26だってのに」
「なんでずっで!―――歳は余計でず」
声を荒げながら、再び後ろを振り返るラクスに、キラはからかうように、舌を出す。
26にはとても見えない無邪気さと美しさを備えている彼女は、ふとした仕草に、大人の女性相応の色香を感じさせることもあり、いとも容易くキラを翻弄する。
君にとって、僕はどんな存在なんだろう。
単なる恩人の子供?
親に見捨てられた可哀想な子供?
それとも、弟のような?
(どれも、嫌だな)
烏龍はほろ苦く、喉を潤す。
”少しとって”と、つまみのポテトチップスの袋を差し出してくるラクスの手からそれをもぎ取ると、彼女は怒って取り返そうとする。
楽しそうに笑いあい、じゃれる2人。
ドサクサまぎれに、キスの一つでもしてしまえば――どうなるんだろう?
この美しい保護者は―――危うい均衡の上に成り立つ、僕達の関係は。
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