NOVELU

□優しい魔女
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act.1) 不思議な転校生



次々と生徒が登校してきて騒がしさを増す中、キラの周囲にも彼に話し掛ける機会を伺う女生徒が、一定の距離を置いて群がってくる。

不用意に距離を詰めると鬱陶しがられるので、彼女等はなかなか近づけない。


いつものように無愛想な面持ちで下駄箱から上履きを出していると、


「キラ先輩!また首位ですね!――おめでとうございます!」
「さすがですね!」

擦れ違う生徒が口々に賞賛の言葉をかけてくる。

キラは無反応に上履きを引っ掛けると、いかにも面倒臭そうに鞄を肩にかけ直した。


「ああ、今日は中間考査の結果の発表か――お前、また首位なんだな……ご両親も鼻が高いな、おめでとう」

アスランがパチパチと乾いた音をたてながら手を叩く。

そのからかうような態度にカチンときたキラは、鋭く彼を一瞥すると、”ガコン!”と、わざと大きな音を立てて下駄箱の扉を閉め、彼を置いてさっさと歩き始めた。



「ちょっとは嬉しそうな顔をしたらどうだ―――?」

「アスラン、分かって言ってるんなら、最悪だよ」


アスランはキラが両親のことを言われるのを酷く嫌うことを知っている。
にも関わらず、時々こうやって、意地の悪いことをするのだ。


それは、幼い頃からの付き合いであるアスランだからできることであり、すっかり感情を表すことがなくなってしまったキラを心配するアスランなりの分かりにくい思いやりなのだが。


しかしながら自覚のありすぎる彼は、キラのポーカーフェイスを崩せたことにとりあえずは満足すると、素直に頭をさげた。


「悪い――でも、お前もいい加減意識しすぎじゃないか?もう高校二年なんだし、親の顔色を伺う年でもないだろう?」


「僕は、あの人達の顔色なんて伺っていないし、気にもしていない!」

キラは突然立ち止まると勢い良く振り返り、眉を吊り上げアスランを睨み付けた。


彼の剣幕に流石のアスランも呆気にとられ、次の瞬間には気まずそうに頭を掻いた。



「アスランも、あの人たちの子供に生まれれば―――僕の気持ちが分かるよ」

思わず感情を剥き出しにしてしまった後悔に顔を歪めるキラを見つめ、アスランは軽く息をつき、労るようにキラの肩を叩いた。

「――いや、御免蒙る……ほんとに悪かった」


「何度も言うようだけれどね、アスラン――僕は生まれてこの方、あの人たちに誉めてもらったことなど、ただの一度も無いんだ」


そう苦々しく、吐き捨てるように言うと、キラはアスランから顔を逸らし、胸のポケットから眼鏡を取り出し装着した。



手が震える。

情けないくらいに。


――分かってる。僕の中はいつでもあの人達への劣等感で一杯なんだ…。


周囲の人間は皆、キラを称賛する。

だが、両親に誉められたことなど、全くキラの記憶には無い。

著名な科学者である両親は多忙を極め、昔から滅多に家に帰ってくることはなかった。
――母方の祖母が、彼の親も同然の生活を送っていたのだ。

それでも祖母はキラに愛情を惜しみなく注いでくれ、彼なりに幸せな日々を送ってはいた。

しかし、その生活も彼が中学3年の時に一変する。



――祖母が、病気で突然亡くなってしまったのだ。

キラはそれ以来あまり感情を外に表すことはなくなり――際立った容貌も手伝い、いつのまにか、まるで精密機械のようだと称されるようになった。

結果、1人暮らしを始めたキラは、ますます自分のテリトリーに閉じこもるようになってしまった。



キラの通う自由高校は国内でもトップクラスの私立校であるし、そこで常に首位を保つだけでも大変なことであるのは皆が認めるところである。
――しかし、キラの心は満たされることはなく、日々虚しさに心が枯渇していく感じすらしていたのだった。

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