NOVELU
□優しい魔女
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憂鬱な気分でクラスの扉をガラリと開ければ、普段は目にしない色がポッと現れた。
見慣れない生徒が、キラの隣の席に座り、数人の男女の生徒に囲まれ、楽しそうに談笑をしている。
入り口で固まっていたキラは、その人物が蒼い瞳を彼へと向けたとき、驚きに目を見張った。
「―――きみ、は………」
「おはようございます!このクラスの方、でしたのね―――!」
その桜色の髪をした人物は、キラを認めると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「今朝は、ほんとに助かりましたわ!―――私、うっかりバス停を降り忘れて――次のバス停から走ってくる破目になってしまいましたの」
キラの手を取り、頬を紅潮させて話す彼女。
―――ちょっと、待て
キラの明晰な頭脳は、彼女の話に疑問を見出し、答えをはじき出そうと試みる。
(次のバス停と言っても、自由高校前からは2kmは離れている―――そこから走ってきても僕より前に学校に到着するなんて……不可能だ)
眉間にシワを寄せて自分を凝視するキラを、彼女は不思議そうに覗き込むようにして見るが、彼の意識は自分の思考に集中しているので気が付かない。
ラクスに握られた手を離すこともせずに、手を握り合ったまま。
クラスの生徒はその、キラ・ヤマトらしからぬ態度に、転校生が早速、彼の不快を買ったのかと、不安げに見守っている。
「あの…?」
何の反応も示さないキラを首を傾げつつ見上げると、少女は”ああ!”と、手を叩いた。
「お名前を申し上げていませんでした――私、昨日コチラに転校してきましたラクス・クラインと申します。よろしくお願いします、親切なお方」
周囲はラクスの言葉にどっとどよめいた。
”キラが親切…?!”
”あの、クールビューティーと呼ばれる精密機械が…?”
ラクスは不思議そうに周囲をきょろきょろと見渡すと、キラに向き直り、言葉を続けた。
「貴方のお名前は……昨日、お休みだったキラ様ですね?」
彼女の口から自分の名が出たことに驚き、キラは改めて彼女を注視した。
やはり、綺麗な顔をしている――にこやかに微笑む様はまるで春に咲く花のようで、これまでキラの目には白黒にしか映らなかった教室がほんの少しピンク色に彩られているかのように見えた。
その想像にキラは思わず頭を振る。
(何なんだ――コイツは……)
さっそくペースを乱された僕が、この先もこの不思議な転校生に振り回されることになろうとは――このときは未だ予想だにしていなかった。
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