NOVELU
□日常風景
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―――『何!?』
フルフルと、身体を震わせるイザークに気付いているのかいないのか、キラは、『久しぶりだったからね――何回もがんばっちゃった。あれ?何回だっけ…』と、嬉しそうに指折り数えている。
イザークの頭は沸点をとうに超えてしまい、今にも爆発しそうな勢いだった。
「き…っ貴様、は………!」
「あら?すみませんでした、ジュール隊長」
イザークが文字通り顔をゆでタコのように赤くして、一言言ってやろうと息を大きく吸ったとき、ラクスが絶妙なタイミングで玄関から姿を見せた。
「あ、ラクス…もう支度できたの?」
「はい…あ、これキラの鞄です」
「ありがと、ラクス」
キラは鞄を受け取ると、ラクスの頬に軽くお礼のキスをした。
大きく口を開け、右手を振りかざしたまま、目の前で繰り広げられる、新婚さんの如き朝の風景を見せ付けられたイザークは、次の瞬間ガクリと肩を落とした。
ここに今、アスランがいれば、共に酒でも酌み交わしたい心境だ。
「参りましょう…クライン議長…」
「いつも、ご苦労様です、ジュール隊長」
天使の如き微笑は、歌姫の時代と全く変わらない―――ただ、時勢が彼女の役割を変えてしまっただけなのだ。
偉大な父親を失い――それでも挫けることなく、彼の遺志を継ぎ、平和への道を模索し―――己の道を突き進む女性(ひと)。
イザークは、足をカツン、と鳴らして揃え、姿勢を正して敬礼する。
「いえ!――――光栄です!」
彼女に仕える喜びは、戦場で軍功を手に入れるよりも、遥かに勝る。
彼女の元で今度こそ平和な世界を手に入れられるならば――この身を喜んで捧げよう。
「いやいや…じゃあ、行こうか、イザーク」
「貴様になど、言っとらんわー!!!」