NOVELU

□白を纏うシリーズ
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「あー、まだ鼓膜が痛いよ」

わざとらしく耳に指を入れて顔を顰めるキラ・ヤマト。



「ふん!貴様がいつまでたっても議長と呼ばんから悪いのだ」

MSのハンガーに向かう車両の中、イザークは腕組みをし、銀髪を風に靡かせながらキラを横目でジロリと睨んだ。


「まあ…ね、でも僕がそう呼ぶと…」

消え入りそうな語尾の続きが気にかかり、イザークが怪訝そうにキラを振り返る。


けれども、鳶色の髪を邪魔にならないように押えながら、キラは曖昧に微笑んで、手を振った。

「わかった…努力するから」


とても信じられない言葉だが、それ以上追求するのも憚られ、イザークはそのまま前を見据えた。


「辛いな、議長も――お前も」


ポツリとイザークが漏らしたこの言葉は風に乗ってキラの耳に届き、彼は意外そうに眉を上げた後、肩を竦めた。


「そうでもないよ」

「?」


「一緒にいられるから――ずっといい」

そう言って、口の端を上げるキラを見ながら、以前ディアッカに言われたことを思い出した。

『姫さんとキラってさ、戦争の無かった2年以外は、結構離れていることが多かったんだぜ――前も、宇宙と地球で離れ離れだったし。姫さんが偽者として追われてるときなんか、危うく撃墜されそうになってさ――実際、キラが間に合わなければそうなってたみたいだけど』

もしも――もしも、そうなっていたならば、いまここにこの少年はいない…いや、この世界に存在し続けていたかどうか。



戦いとは無縁そうな、優しげな面差しをしたこの少年は、ラクス・クラインという少女を支え、守るために――それだけのためにプラントに上がってきた。

イザーク等生粋の軍人が掲げる”プラントのため”という大義名分など、彼は要らないのだ。



「それもいいのかも――知れんな」


(ラクス様がどれだけ、キラ・ヤマトを心の拠り所にしているか…この目の前で見せ付けられたしな)

キラがプラントへ入ったときの、人目を憚らない2人の抱擁を思い出すと、自然に頬が緩む。



そういう愛の形もあるのだと――愛する者を戦いから遠ざけるのではなく、お互いを守ることで示される愛の形もあるのだと、イザークはキラとラクスから知った。



「?」

気が付くと、キラが、訝しげにコチラをみていた。

「なんだ?」

「イザーク…僕に見とれてたの?――じっとこっち見てたよ?」


いかにも嫌そうに顔を歪めるキラを前に、フルフルと肩が怒りに震える。

――コイツは…まったく……――!!


「そんなわけないだろうがァ!!!!」


その罵声に、運転手はハンドルを切り違え、あやうく壁に衝突しそうになった。




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