NOVELU
□白を纏うシリーズ
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2)いざ、勝負
「ふぁ〜ァ」
「くぉらあァァー!キラ・ヤマト!隊長たるもの、だらけ切った姿を見せるな!」
「朝からげんきだねぇ…イザーク」
キラは口に掌を当てたまま、涙を目尻に滲ませている。
「昨日は比較的楽な作業しかなかったのに…なんだ、貴様のその疲れようは!?」
キラの動きがふっと、止まり、ゆっくりと顔をイザークの方へ回転させてきた。
「……聴きたい?」
にんまり、という形容詞がぴったりの笑い顔でキラがイザークを斜めに見てきた。
即座にイザークの背を戦慄が走る。
「いや!――いい!言うな!―――ぜったいに!!言うな!」
イザークは慌てて両手と首を器用に振る。
このまま聴けば、惚気タイムに突入だ、と…彼の本能がそう告げていた。
「ふーん、残念」
あからさまにがっかりした態度で、キラはそっぽを向いてしまう。
(疑問だ…なぜ、コイツがおそらくは宇宙最強のパイロットなんだ……)
ギリギリとイザークはキラの背中を睨み、頭の中で疑問を繰り返す。
「あ、コレ、イザークに昨日頼まれていたデータ解析」
「ああ――って、貴様、これは1週間はかかる代物だぞ!?」
ぽん、と投げよこされたCD-Rを手に、イザークは驚愕の叫びを上げた。
「ん?あー、それは普通の人がすれば、デショ?」
そう言い、にっこりと笑うキラを前に、またもやイザークは敗北感に見舞われた。
(しかも、情報処理の天才……)
どうにか、こいつに”ぎゃふん、参った”と、言わせたい――
実際に人が”ぎゃふん”というかどうかは別にして――イザークは知略を巡らす。
イザークは、かつてアスランに感じたようなライバル心をキラに――いや、アスランに感じたとき以上に感じ、どうにかやり込めたいと考えていたのだ。
(俺がアスランに勝てたのは……たしか…)
「チェス!」
「うあ!――何?!イザーク…びっくりしたあー」
いきなり大声を発したイザークに驚いたキラが、胸を押えて目を丸くした。
「ふふ、そう間抜け面をしていられるのも今のうちだ…貴様には今から嫌というほどの屈辱感を味わわせてやるわ!」
瞳の奥に炎を燃やしながら、イザークはキラを娯楽室まで連れて行く。
「なんなのー?面倒くさいよ、イザーク…」
「貴様!鍛錬と思い、しっかりやれ!」
キラはもともとの身体能力が優れていたために、なんなくあらゆるプログラムをこなしてしまう。
はっきり言うと”簡単すぎる”のだ。
また何かに付き合わされるのかと、キラの顔は晴れない。
そのとき
「ジュール隊長――ヤマト隊長……」
鈴を転がすような、それでいて凛と響く声が彼等の後ろから聞こえた。
キラのダレ切った背筋はピン、と張り、颯爽と声の主の下へと歩いていく。
イザークは条件反射で、敬礼の姿勢のまま。
「ラクス!――2時間ぶり!」
キラはそう言いながら、ラクスへ抱きつき、ラクスもキラの背中へ手を回す。
(んなっ……!?)
イザークは、敬礼姿勢を崩さぬまま、顔をタコのように赤くしている。
「クッ…クライン議長は!―――どちらに行かれるのですか!?」
この状況をどうにかしたいと、苦し紛れの質問をする。
議長が何処に行こうが、一介の軍人である自分が訪ねることではない――ー
叱責されても、仕方が無いことだろう。
ところがラクスは気にしないどころか
「暇なのでプラプラしておりました」
と、にっこり微笑んだ。
「ジュール隊長は何処に行かれるところだったのです?」
逆に質問されて、いきなりのことにイザークはあたふたして答える。
「キラ・ヤマトとチェスを楽しもうかと――思っておりましたっ!」
「まあ――いいですわね…、そうですわ!わたくしも混ぜてくださいな!」
「は?!」
「ジュール隊長と、勝負ですわ!」
「…………」
口をあけたままのイザークを置いて、キラとラクスは腕を組んで娯楽室へ入っていく――
その数十分後には、ラクスにコテンパンにのされてしまった、イザークのシカバネが…残されていた、という………
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