NOVELU

□白を纏うシリーズ
4ページ/44ページ

2)いざ、勝負


「ふぁ〜ァ」

「くぉらあァァー!キラ・ヤマト!隊長たるもの、だらけ切った姿を見せるな!」

「朝からげんきだねぇ…イザーク」

キラは口に掌を当てたまま、涙を目尻に滲ませている。


「昨日は比較的楽な作業しかなかったのに…なんだ、貴様のその疲れようは!?」


キラの動きがふっと、止まり、ゆっくりと顔をイザークの方へ回転させてきた。


「……聴きたい?」

にんまり、という形容詞がぴったりの笑い顔でキラがイザークを斜めに見てきた。

即座にイザークの背を戦慄が走る。


「いや!――いい!言うな!―――ぜったいに!!言うな!」

イザークは慌てて両手と首を器用に振る。

このまま聴けば、惚気タイムに突入だ、と…彼の本能がそう告げていた。


「ふーん、残念」

あからさまにがっかりした態度で、キラはそっぽを向いてしまう。


(疑問だ…なぜ、コイツがおそらくは宇宙最強のパイロットなんだ……)

ギリギリとイザークはキラの背中を睨み、頭の中で疑問を繰り返す。



「あ、コレ、イザークに昨日頼まれていたデータ解析」

「ああ――って、貴様、これは1週間はかかる代物だぞ!?」

ぽん、と投げよこされたCD-Rを手に、イザークは驚愕の叫びを上げた。

「ん?あー、それは普通の人がすれば、デショ?」


そう言い、にっこりと笑うキラを前に、またもやイザークは敗北感に見舞われた。

(しかも、情報処理の天才……)



どうにか、こいつに”ぎゃふん、参った”と、言わせたい――

実際に人が”ぎゃふん”というかどうかは別にして――イザークは知略を巡らす。



イザークは、かつてアスランに感じたようなライバル心をキラに――いや、アスランに感じたとき以上に感じ、どうにかやり込めたいと考えていたのだ。

(俺がアスランに勝てたのは……たしか…)


「チェス!」


「うあ!――何?!イザーク…びっくりしたあー」

いきなり大声を発したイザークに驚いたキラが、胸を押えて目を丸くした。


「ふふ、そう間抜け面をしていられるのも今のうちだ…貴様には今から嫌というほどの屈辱感を味わわせてやるわ!」

瞳の奥に炎を燃やしながら、イザークはキラを娯楽室まで連れて行く。


「なんなのー?面倒くさいよ、イザーク…」

「貴様!鍛錬と思い、しっかりやれ!」



キラはもともとの身体能力が優れていたために、なんなくあらゆるプログラムをこなしてしまう。

はっきり言うと”簡単すぎる”のだ。



また何かに付き合わされるのかと、キラの顔は晴れない。


そのとき



「ジュール隊長――ヤマト隊長……」


鈴を転がすような、それでいて凛と響く声が彼等の後ろから聞こえた。


キラのダレ切った背筋はピン、と張り、颯爽と声の主の下へと歩いていく。

イザークは条件反射で、敬礼の姿勢のまま。


「ラクス!――2時間ぶり!」

キラはそう言いながら、ラクスへ抱きつき、ラクスもキラの背中へ手を回す。


(んなっ……!?)

イザークは、敬礼姿勢を崩さぬまま、顔をタコのように赤くしている。


「クッ…クライン議長は!―――どちらに行かれるのですか!?」

この状況をどうにかしたいと、苦し紛れの質問をする。

議長が何処に行こうが、一介の軍人である自分が訪ねることではない――ー


叱責されても、仕方が無いことだろう。


ところがラクスは気にしないどころか

「暇なのでプラプラしておりました」

と、にっこり微笑んだ。



「ジュール隊長は何処に行かれるところだったのです?」


逆に質問されて、いきなりのことにイザークはあたふたして答える。

「キラ・ヤマトとチェスを楽しもうかと――思っておりましたっ!」

「まあ――いいですわね…、そうですわ!わたくしも混ぜてくださいな!」

「は?!」

「ジュール隊長と、勝負ですわ!」


「…………」

口をあけたままのイザークを置いて、キラとラクスは腕を組んで娯楽室へ入っていく――



その数十分後には、ラクスにコテンパンにのされてしまった、イザークのシカバネが…残されていた、という………



NEXT
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ