企画部屋
□愛情(最終章)
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「キラ?着きましたわ――キラ?」
優しく身体を揺さぶられる感覚と共に上から降ってくる優しい声。
「ん…?」
薄目を開けたキラの目に映ったのは、何処までも深く、優しい蒼。
「ぐっすりお眠りになっていましたわね?―――もっと寝かせて差し上げたいのですが…ホテルに着いてしまいました。」
「――――!?」
自分の体勢がいまひとつわかっていなかったキラだったが、頭の辺りを擦ってみて、枕のようにしていたそれが、ラクスの太腿だったことに初めて気がついた。
「ラ…ラクス!!………さま」
目を丸くして飛び起きるキラだが、ラクスが途端に拗ねた表情になったことに気付き、眉根を寄せた。
「ラクスさま?――どう…」
「もう、公務は終わりです――――”さま”は止めて下さいな、キラ」
ラクスの細い指がキラの唇に触れ、彼の言葉を中断させた。
さらに目を丸くするキラを見ると、いたずらっ子のように肩を竦めて微笑み、ラクスは車外へ飛び出した。
「キラ!―――見てくださいな!」
両手を広げるラクスの向こうを見れば、見事な巨大ツリーがライトアップされており……その周囲には沢山のカップルや子供連れの家族の姿が見えた。
数多くのオーナメントが飾られており、まばゆいほどの光が、その姿を幻想的に見せている。
「綺麗ですわね……家で、皆で囲むツリーも好きですが、こうして大勢で見上げるツリーというのも…良いものですわね」
ラクスは頬を紅潮させ、ツリーを見上げたまま興奮気味に語っていたが、キラが隣に立ったのを確認すると、彼の胸に軽く頭を預けた。
「ラクスさ…」
ギロ、とラクスに上目で睨まれ、キラはコホンと咳払いをすると、アメジストのように輝く瞳を優しく細め、両腕を彼女を抱えるように、前に回した。
「ラクス…寒いから、中に入ろう」