企画部屋
□愛情(最終章)
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ラクスはレイの後姿を目で追いながら、キラに寄り添った。
「びっくりしましたわ…でも、レイがここの支配人になっていたとは…びっくりです」
「落ち着いた物腰の、感じの良い青年だね」
「はい――キラは会ったことはありませんでしたか?」
「彼が遊びに来ていた頃――その頃は、まだ僕は執事の仕事をしていなかったからね、直接会ったことはないよ」
おっとりと答えながら、キラは内心、自分の独占欲の強さに呆れていた。
ラクスが他の男性と触れ合っただけで、胸がざわついて、落ち着かなくなっている。
早く彼女を自分のものにしてしまいたい――自分のものだと、宣言できる根拠が欲しい、と、どす黒い欲望がうずきだすのだ。
「聖なる夜に――罰当たりだな、僕は」
自虐的に呟いてみせて、ドレスを試着に行っているラクスに想いを巡らせた。
思えば――彼女に恋愛感情というものが芽生えたのはいつの頃だったのだろう?
はっきりとは覚えていない。
彼女を最初に見た時――赤ん坊だったラクスがキラの指を握ったあの瞬間から彼女は守るべき存在になり、絶対的な庇護愛の対象だった。
父の病により、キラは大学をやめてクライン家に呼ばれることになり――久しぶりに会ったラクスはまばゆいほどの光に満ち――美しく成長していた。
それでも、ラクスが異性としての魅力を垣間見させても――歳の差もさることながら、主人と使用人という身分の差が、キラに目隠しをしていた。
結果、キラよりも己の感情に正直なラクスは一時期、酷く思い悩む事になったのであるが。
ところがある切っ掛けから、いちど彼女への思慕を認めてしまえば、それまで必死に積み上げてきた理性、常識といった堰はいとも容易く押し流されてしまい―――現在ではますます深みにはまり、身動きが出来なくなってしまっている。
彼女を自分のものにしたい、自分の想いを成就させたい―――そんな欲望がラクスを汚してしまう事をキラは恐れていた。