企画部屋

□愛情(最終章)
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「キラ?」


自分を呼ぶ声に、我に返って顔を上げると、そこにはすでに支度を終えたラクスが微笑を浮かべて立っていた。

キラは思わず息を呑んだ。


――印象的な桜色の髪はドレスに合わせてアップにまとめられ、オフショルダーのデザインが、肩から鎖骨にかけての華奢な線を魅力的に強調していて眩しい。

赤という鮮烈な色彩も、ラクスのぬけるような白い肌を尚一層、輝かせている。

軽く化粧を施された彼女は、実年齢よりも5つは上に見え、色香のようなものも漂わせ、キラを惑わせた。



「よくお似合いです―――ラクス様…では、参りましょうか」

人前ということを意識し、キラは冷静に、にこやかに、言葉を選んだ。



キラの腕に手を掛けて、背筋を真っ直ぐに伸ばして歩くラクスの横顔をチラリと盗み見ては、キラは密かに感嘆の溜息をついた。



彼女はこんなに美しかっただろうか―――



ラクスはもともと愛くるしい容姿をしているうえに、正装をすれば、本来の歳よりも上にも見える。

それはキラも常日頃実感していることなのだが、そういうことではない。



ミカドの御曹司を前にして、一歩も譲らず、見事勝利を収めるという、彼女の内面的な成長が加わり、芯に強さと自信を秘めた魅力が開花したが故に、こうも内側から惜しげもなく魅力を放っているのだろう。


キラとラクスの間には8つもの歳の開きがあるのに、今日の彼女はその事実をあまり意識させなかった。




「お嬢様は―――本当に、お美しくなられました」


賛美の言葉を語る――キラのあまりに切なげな口調に、ラクスは、今は2人きりというにも関わらず”お嬢様”と呼ばれたことを指摘することも忘れ、心配そうに小首を傾げる。

「どうしました?―――キラ?」



「いえ…ただ、昔を思い出していたのです…まだ幼かった貴女の―――ツリーの天辺の一等大きな星は自分がつけるのだとごねて……僕に抱っこをされながら、星を飾っていた、貴女を」



優しく微笑むキラの瞳は過去を見詰めている。



「お嬢様が、立派に成長されて―――私は、とても誇りに思います」



――そんな彼女をお前は汚すつもりなのかと、キラの中で自分を責める声が聞こえる。



キラの顔が一瞬、苦しそうに歪んだ。



「キラ…?」

ラクスはワケが解らず、キラの内心を探ろうと、蒼い瞳を大きく見開き、キラの顔を覗き見るが叶わない。

また、自分は彼の心を見失ってしまっているのかと、たちまち不安に襲われる――


食事をしている間も、彼のどこか上の空な様子は変わる事は無く、ラクスは内心、正体のわからない焦燥に捉われていた。
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