企画部屋
□贈り物
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『贈り物』
(「内緒の生活」の後日談〜クリスマス・バージョン〜)
ラクス・クラインの部屋には、小物特集の雑誌が散乱して、足の踏み場がなくなっていた。
「あああ…キラは、自分で働いていらっしゃるから、欲しいものは何でも買えるでしょうし…。いったい何を差し上げればよいのでしょう…?」
雑誌の海で泳ぐかのごとく、手足をばたつかせているラクス。
受験生という身でありながら、3日後に迫ったクリスマスのため、本来であれば勉強に使うべき頭を大いに悩ませている。
「手編みのマフラーと手袋は去年プレゼントしましたし…キラは…何が一番欲しいのでしょう…」
「僕が欲しいのは、ラクスだよ」
不意に上から降ってきた声に、ビクリと震え、そろそろと顔をあげると、綺麗な紫の瞳を優しげに細めたキラの笑顔があった。
「きゃあ!キラ!―――ノックくらいしてくださいな!」
独り言を聞かれた恥ずかしさに顔を真っ赤にして、ラクスはガバリと跳ね起きた。
「いや、お母さんが入っていいって…」
「母の言う事は真に受けないでくださいー!」
ラクスの母のマリアは、実にあっけらかんとした性格で、本来、禁断の仲である教師のキラと生徒のラクスの恋愛を公認しているのみならず、2人が肉体的関係を持っていると知っていても、全く干渉をしてこない――強いて言えば避妊の心配のみをしている、ある意味”肝っ玉母ちゃん”である。
「―――というか…此処のとこ、なんか様子がおかしいと思ってたら、そんなこと心配してたの…?」
キラは溜息混じりに、少し非難めいた口調で呟いた。
「”そんなこと”では無いです!やっぱり、すっ…好きな方には喜んで頂けるものを差し上げたいと思いますっ…!」
自分が散々悩んでいた事を”そんなこと”扱いされた事に憤りを感じたラクスは、口ごもりながらも必死で反撃をした。
「いや、そうじゃなくて…」
キラは笑顔でかぶりを振った。
「ラクスがくれる物なら、なんでも喜ぶのになあってことだよ―――。中身は、何でもね」
「何でも…」
余裕のあるキラの態度に、肩すかしを食わされた形のラクスは、キラの言葉に首を傾げた。
「じゃあ、聞くけど…ラクスは何が欲しい?」
キラは、ラクスの背後に回ると、後ろから包み込むように、細い身体を包んだ。
運転してきたために、かけてきた眼鏡を外すと、ベッドサイドのテーブルに置いた―――いつも、彼が眼鏡を置く定位置になっている場所に。
「え…」
――――何だろう?
キラのプレゼントを考えるあまりに、すっかり失念していた。
アクセサリー?バッグ?本?―――どれもピンとこない。
見る見るうちに、ラクスの眉間には、深い縦じわが刻まれてしまった。
ほらね、と言いたげに、キラは口元を緩ませた。
「僕も、ラクスも―――心から欲しいと思う”もの”は手に入っているからだよ」
そう言って、彼女を抱く腕に優しく力を込める。
後ろを振り返り、紫の瞳と蒼い瞳が出会ったとき―――彼女は全てを理解した。
ラクスは表情を和らげ、クスクスと笑いをこぼした。
「まあ、キラは―――自信家でいらっしゃいますわね!――」
「君もね」
キラは、小首を傾げて笑うと、ラクスの唇に軽くキスを落とした。
―――この世で最も大事なものが手に入っている以上――それ以上のものを、望むべくもなく。
『…大切な人から貰うもの全てが―――嬉しい贈り物、ですわね』
FIN