企画部屋
□恋の妙(みょう)〜前章〜
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都会のど真ん中に聳え立つ、近代的な社屋―――日本を代表するコングロマリットである「ヤマトグループ」の中心企業「ヤマトコーポレーション」の社長を務めるキラ・ヤマトは「ヤマトグループ」の次期総帥となる人物である。
その忙しさたるや、総理大臣をも凌ぐと言われ、昼夜問わず仕事に明け暮れる生活を送っていた。
その彼が想いを寄せる唯1人の女性と過ごす時間をご褒美に、文字通り寝る間を惜しんで働いている。
―――だが、最近は月末に株主総会が控えているために通常以上に忙しく、プライベートの時間を全くといって良いほど取れないでいた。
家にはシャワーと着替えに戻る程度の生活がここ数週間続いており、キラのいろいろな方面での我慢も臨界点を突破しようとしていた。
「バルトフェルド」
キラは、机上の書類に目を通しつつ、キーボードの上に指を走らせる。
「なんでしょうか、社長」
彼の腹心であるバルトフェルドは、主人の言わんとするところはよく理解しているが、わざと素知らぬ振りをして答える。
確かに、キラがやることは山ほどあり、他の誰も彼の代わりは出来ない。
気の毒に思うが、ここは会社のため、心を鬼にしないといけないのであった。
「もう、限界だ」
カタカタと、キーボードの音は絶え間なく続く。
「心得ております、社長」
「僕は明日こそ大学に行くからな」
カタカタカタ…
「それは出来ません…明日は9時半から予定が詰まりに詰まって…」
ガタン!と、勢い良く椅子から立ち上がる音が室内に派手に響いた。
「今日もそうだったぞ!?バルトフェルド!…お前は主人の向学心を大事にしようとしないのか!!」
「お言葉ですが、キラ様。貴方様が大学に行く目的は違うのでは……」
「うるさぁーい!」
バン!と、キラは思い切り、両手で執務机を叩いた――――危うくコーヒーカップがひっくり返る勢いだった。
「そうだ!ラクスと最後に会ったのはいつだと思う!?3週間前だぞ!?――――これが、付き合い始めてまだ半年にも満たないカップルの正しい姿か!?」
バルトフェルドを鬼のような形相でキッと睨みつけたまま、一気にまくし立てると、ふいに、キラは彼から視線を外した。
ハアハアと肩を上下させ机に両手をついたまま俯くキラに、バルトフェルドは恐る恐る近付いていく。
「キ…キラ様?」
「会議の時間だ」
キラは硬い表情で顔をあげると、ハンガーからスーツの上着を取り、肩に掛け、手首のカフスボタンを留めながら、そのまま黙って部屋を出て行った。
「ふむ……」
呆気にとられたバルトフェルドだったが、少しの間思案すると―――、煮詰まったキラを宥められる唯一の人物に連絡をすべく電話を取った。