企画部屋

□小春日和
1ページ/3ページ


『小春日和』

ヤマト邸の庭園を美しい秋の花々が彩り始める頃、ラクスの出産に向けて、邸内のキラとラクスの夫婦部屋は大改造が行われた。

特注のベビーベッドが搬入され、赤ん坊が怪我をしないように角の尖った家具は移動され、カラフルな、可愛い子供用の家具が設置された。

グループあげて、次期代表の子供が生まれる日を今か今かと待ちわびている。


ヤマト、クライン両グループ内では社員の間で『キラ様とラクス様の子供は男か女かトトカルチョ』が密かに開催されており、賭け金はかなりの額に膨れ上がっていた。




「―――で、貴方はどちらに賭けられたのです?」


グループの次期代表であるキラ・ヤマトは、奥方のラクスに問われ、ギクッと肩を揺らした。


「いやだな…ラクス。僕が可愛い我が子をそんな賭けの対象にするわけ、ないじゃないか?」

ラクスがこうも堂々と聞いてくるにはきちんと裏をとってあるのだろう…長い付き合いの中でキラはよく理解していた。

だが、咄嗟に誤魔化してしまうのが自分の哀しい性だ。


じとり、と視線を外さずに睨み続ける彼女にとうとうキラは白旗をあげた。


「女!…だって妊娠した後のラクスの顔はどんどん穏やかになってるって…カガリとか、ミリアリアとか言ってるし」


「そうですか…」


「付き合いだよ!付き合い!…僕はほんとにどっちでもいいんだよ?――――僕とラクスの子っていうだけでもう最高だよ!」


顔を俯かせ、役員会議室に向けて歩き出すラクスに、キラはあたふたと言い訳をしながら必死でついて行った。


―――まあ、負けず嫌いの性格で…特に”賭け”に勝つ、ということに関してのキラのプライドがチョモランマ級だということは、ラクスは誰よりもよーくわかっている。
今回もうまい事、自尊心をくすぐられたのだろう。

ラクスは微かに首を振って、小さくため息を吐いた。



「大体、ラクス―――もう産み月なんだから、自邸で安静にしていた方がいいんじゃないの?」

キラはラクスの腕を掴んで静止させ、眉をひそめながら、彼女のそれほどには大きくない腹を一撫でした。


「先日、どうしても、と要請を受けたのです……私が以前関わったプロジェクトがお役に立ちそうですから…今日その引継ぎをして、明日から休みに入ります」

柔らかに笑うラクスの様子に安堵したキラは、それならば、と、また歩き始めた。


―――と、そのとき、

「どうしたの?……ラクス?」


ラクスが急に下腹を押さえて立ち止まった。


「破水、したようです」


「ええええ!?」

役員フロアの廊下にキラの声が響き渡った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ