BSR(short)
□宮廷神官パロ
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「……まだか、小十郎」
「まだでございます」
「ハァ……」
何度目か分からないやり取りに政宗は盛大な溜め息をつく。
歩き始めてからもう二日も経つというのに、一向に目的地に辿り着かない。
辺りを見回してみても、生い茂った木々がさらさらと揺れているだけ。
村なんてものはどこにも見当たらない。
「shit!本当にこんな辺鄙な場所にいるのかよ」
悪態をつくと、小十郎が神官なんだからと窘める。
はいはいと頷きながらも、政宗は内心、神官なんてと思っていた。
若くして宮中神官に任命された政宗は周りからよく思われてはいない。さ
嫉妬や羨望に染まった瞳を向けられ、様々な嫌がらせを受けていた。
やられっぱなしは性に合わないので、時々制裁を加えてはいるのだが、一向に無くなる気配はない。
今回の旅も、自分に厄介事が降り懸からぬようにと他の神官共に嵌められた結果だ。
その時の出来事を思い出し、政宗は黒笠で隠れた顔を盛大に歪めた。
−−いつか絶対に沈めてやる。
神官らしかぬことを考え、政宗はニヤリと口角を上げた。
「An?」
ふと空を仰ぎ見た政宗は眉根を寄せた。
空から真っ赤なモノが−−否、真っ赤な着物に身を包んだ人間が降ってくる。
「政宗様!」
小十郎が叫ぶが、政宗の耳には届いていなかった。
結構なスピードで落下してくる人間を受け止めようと、両腕を伸ばす。
ドサリ
思ったより衝撃は軽く、腕が痛んだのは一瞬だった。
見れば、腕の中には小柄な少年が収まっている。
落下の衝撃に耐えようと瞑っていた目を開くと、目の前には見知らぬ男の顔。
少年はクリクリとした大きな目を更に大きく見開いた。
その顔に政宗は優しく微笑む。
すると少年は顔を熟れたトマトのような色に染め、必死に政宗の腕の中から逃れようともがく。
「あ、ああああの!」
「An?」
「その……お、下ろしてくだされ」
恥ずかしそうに視線を逸らす。
そっと地面に下ろしてやれば、少年は「有難うございまする」と丁寧に頭を下げた。
「おい。この辺にBASARA村っつう村があると聞いたんだが、知っているか?」
「はい。某はBASARA村の住人でございますから」
小十郎が聞けば、少年は元気よく答える。
しかし、その顔は少々、怪訝そうだ。
それもそのはず。
いくら旅装束といえど、そこそこ上質な生地を使った小綺麗な格好の美丈夫たちが辺鄙な場所にある村を訪ねるなど、今までに無い。
その思考を読み取ったのか、政宗はやれやれと肩を竦めて言った。
「とある人物を探していてな。詳しいことは言えないが、BASARA村に居ることは確からしい。アンタ、案内してくれないか?」
「某が……ですか?」
不思議そうに尋ねると「アンタ以外に誰がいんだよ」と溜め息をつかれてしまった。
「分かり申した。某が、村まで案内致しまする」
「Thank you……ところで、アンタ名前は?」
そう言われて、初めて自分が名乗っていないことに気付く。
「あっ」と声を漏らし、すまなさそうに頭を下げる。
「申し訳御座らん!某は真田幸村と申しまする」
「「真田幸村!?」」
「え?あ、そう、でござる」
見事に調和した二人の声に幸村は大きな目を見開き、頷く。
二人が何故そんなにも驚くのかが幸村は分からなかった。
知らぬ間にそんなにも有名になったのだろうか。
「……小十郎、こいつが俺達の求めていた奴か?」
「そうは見えませんが、名前は一致しています」
「そうか……おい、真田幸村!村にアンタと同じ名前の人間はいるか?」
「いいえ。某だけに御座いまする」
「決まりだな」
そう呟くや、政宗は軽々と幸村を肩に担いだ。
「!?」
「政宗様、せめて村の者に挨拶をしてからの方が……」
「No!面倒なんだよ。俺の役目はコイツを連れていくことだ」
何の問題もない、と呟く。
状況を理解しきれていない幸村はただ目をパチパチと瞬かせるだけだ。
「んじゃ、帰るか」
やけに楽しそうに歩きだした政宗に溜め息をつきつつ、小十郎も後を追う。
「……え?なっ、なんで御座るかぁぁぁー!!」
幸村の叫びが、虚しく森に木霊した。