BSR(short)

積雪と赤い花
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冬は嫌いだ。

寒いし、雪に行き先を阻まれるし、なにより古傷が痛む。

飽きることなく降り続ける雪を見つめ、政宗は顔を顰めた。

字は違えど、読み方は同じはずの“雪”は“幸”のような暖かさはない。


愛しい、紅の花。
早く春が来ればいい。

そうすれば会いに行ける。


早く、早く、早く。


冬なんて終わってしまえ。



ピシャリと戸を閉めて完全に外の世界を遮断すると、政宗は普段は真面目にやることのない執務を熟し始めた。


どれくらいの時間が経っただろうか。

気付けば机の上に突っ伏して寝てしまっていた。

ずっと同じ体勢だったせいか、体が痛む。

そして、何より寒い。

日が暮れて、気温が下がったのだろう。



「さみぃ……」



ぽつりと呟いてみるが、当然ながら寒さは緩和されない。

とりあえず外の状態がどうなっているのか確かめよう。

もしかしたらまた雪が降っているのかもしれない。

カラリと戸を開く。

すると、ひらりと靡く紅が視界に入った。



 


「……なぜ居る」


低い声で背中に呼び掛ける。

政宗の声に気付いた幸村は嬉しそうに振り向いた。


「おぉ、政宗殿!お久しゅうござる!!」

「“おぉ!”じゃねぇ。いつから居たんだ」

「……忘れてしまいました」


アハハと頭を掻く。

そんな幸村の姿を見て、政宗は素足にもかかわらず地面に降り立った。


「ま、政宗殿!?足がっ!」


慌てて幸村が駆け寄ってくる。履物を!と叫んでいるが、聞く耳を持たない。

しかしあまりにも煩いので、口で口を塞いでやった。


「……冷てぇ」


幸村の唇は冷たかった。

どのくらいこの場所で佇んでいたのだろう。

一言でも声を掛ければよかったのに。

ちゅっと音をたて、今度は額に口づける。

茹でタコみたいに顔を真っ赤に染めて幸村が睨み付けてきたのだが、全く凄みはない。

むしろ、もっとしたくなる。



「さみぃ……」

「そんな薄着で、しかも履物を履いていないからですぞ」

「アンタに言われたくねぇ」


こんなに寒いのに相変わらずのへそ出し。

腹下さないのか、これ。


「まぁ、いい……さみぃし、中入ろうぜ」

「賛成でござる」

「なぁ、温めてくれよ……」


さらりと頬を撫でながら、艶を含んだ声音で囁く。


「はれんち……」




でも拒めない。

……いや、拒まない。






そのために、ここへ――














――来たのだから。







END
 

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