幸せな時
□四話
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樋立が不動と同じ部屋で一泊すると決まった後、部屋へと移動した。
どんなものかと思いながら中に入ってみるととてもシンプルである。
きちんと片付けられていて綺麗だ。それもメイドのおかげなのか、それとも不動がただの綺麗好きなのかは分からない。
「あー、樋立チャン着替えとか持ってんの?」
「え?着替え?……あ、無い……」
突然トリップしてきてしまったのだから着替えなどあるわけもない。服も下着も今身につけているもののみだ。そのことに気付いた樋立はどうしようと慌てる。
「まぁ、今日は俺のでよけりゃ服、貸すぜ?」
「?!ほ、ほんまですか?!」
「おう。別に減るもんでもねえしな」
「じゃあ、お願いします…!」
「あー、でもデカイかもな…」
「そんなん全然気にしませんよ?着れたらいいだけの問題ですし」
不動の提案に多少驚きつつも嬉しそうな樋立。
好きな人と一つ屋根の下、更には同じ部屋、そして服まで貸してもらえるという本当に夢のようなことの連続。
「それもそうだな。つーか、この家無駄にでけーだろ?」
樋立の緊張を解す為か話題を変える。
まるで自分の家を自慢しているかの様な表情を浮かべる不動。
「はい。こんなにでかいなんて思ってなかったです」
不動の問いに笑って答える。
鬼道家は原作でも滅多に出されて居なかった為、想像以上の建物だったのだ。
「あ、そうそう。内装もややこしいから晩飯まで時間あるし案内してやるよ」
「え、いいんですか?」
樋立の問いに当然だ、と言いたそうに頷いた。
それは樋立にとってどれだけ嬉しいことか。好きな人と一つ屋根の下。好きな人と同じ部屋。好きな人に服も借りれる。更には案内までしてもらえるとのこと。
(あー、こんな幸せでええんかなぁ…)
心の中で呟く。
トリップしてきてからいい事続き。
近いウチに良くないのことが起こるのでは、と不安が募る。