鬼徹

□シンクロ率高め
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目の前には一緒に居られては困る鬼灯様と白澤様。
そんな二人が見ているのは私。
何時も仲が悪い二人はたまにシンクロする時がある。
だが、しかし。何故今。その言葉でシンクロするのか問いたい。

「好きです」
「好きだよ」

これは夢なのか。
今日は4月1日ではないことを確認して悩む。
一体何かの罰ゲームを受けているのかもしれない。

「お二方、どうなされたのですか?冗談は止してください。騙されませんよ?」

混乱したままの頭での発言。

「紅音さんは私がこういった冗談を言うと思いますか?」
「冗談でこういうこと言わないよ?」

またもや同時に言われる。
本当、何の罰ゲームなのでしょう。

「鬼灯様はともかく、白澤様はしょっ中女遊びしているじゃないですか。様々な女性に好きだとか仰っているでしょう」
「紅音ちゃんは特別なの」
「はぁ…お二方の発言はとても信じ難い」

白澤様にとって私は特別?
それは一体どの様な特別なのか詳しく聞かせてほしいものだ。
鬼灯様に関してはよくわからない。女に興味なさそうですし。
私はどうすればよいものか。
逃げればいいのでしょうか。

いや、逃げれる気がしません。
相手は鬼神と神獣。
どの様な手を使ってでも捕らえられそう。

「言っておきますが、これは冗談でも罰ゲームでもなんでもありません。私の本心です」
「僕だってそうだよ。僕が心から好きで、守りたいと思っているのは紅音ちゃん、君だかなんだから」

いや、絶対これは罰ゲームだ。
そうとしか思えない。

「申し訳ありません、どうやら私の脳内はあなた方の考えについていけないようです」

額に手を添えて言う。
そう、悩んでますよアピール。

「あぁ、そんな姿も可愛らしい」
「何を言ってるのさ。紅音ちゃんは何をしても可愛いんだよ」

効果は無しです。
寧ろ逆効果。悪化。どうすれば。

あぁ、もう一層の事ノリに乗って振ってしまえばいいのでは。
そう思い立った私はあっさり振りました。
それはたった一言。

「ごめんなさい」

と。きちんと頭も下げて。
頭を上げればさも当たり前のように佇む鬼灯様と笑い飛ばす白澤様を思い浮かべていたのですがその予想は擦りもしませんでした。

「何故です?!私に不服な部分があるのならば直します。ですからもう一度考えを改めてください」
「紅音ちゃんと付き合えるのなら衆合地獄に行かないし女遊びだってやめるよ?!紅音ちゃんの言うこともなんでも聞く。だからもう一度考え直して?!」

これまた見事なシンクロ。
なんとか聞き取れたものの…いい加減シンクロやめてください。

「鬼灯様に不服な部分などありませんし、白澤様の言葉は信じられません。何しろ、その告白もどきすらも信じられていませんし。いい加減罰ゲームなどお辞めになられては?」

溜め息混じりに返答をするもお二方はお互い顔を見合わせて「駄目だこりゃ」みたいな呆れた表情を浮かべる。
更には先にどうぞ、と何かの順番譲りをし始めた。

「では、お言葉に甘えて。…紅音さん。貴女という方は何処まで鈍感なのですか。いい加減にするのはそちらの方です」
「何のことですか?」

譲り合いの末、先に口を開いたのは鬼灯様だった。
何かと思えば何故か説教染みた事を言われた。本当、何故。

「気に障りますが…私も白澤さんも本気で貴女の事が好きなのです。貴女に好意を抱いているのです」
「それを当たり前かのように冗談やら罰ゲームやら言われて。わざとなのか鈍感なのか。紅音ちゃんって仕事はきっちり出来るのに恋愛に関しては鈍いんだね」

鬼灯様と白澤様の口からスラスラと発せられる言葉に固まる。
好き?好意?誰が?誰を?鬼灯様と白澤様が?私を?そんな馬鹿な。

けれど、そう言う二人の表情はいつにもなく真剣で。
とても冗談を言っている風には思えない。

「鬼灯様と?」
「はい」
「白澤様が?」
「うん」
「私に好意を?」

「そうです」
「そうだよ」

真実を知った私はどうすればよいのでしょう。
これこそ今すぐ逃げるべきなのでしょうか。
ていうか、何故あなた方はそんな仲睦まじく告白してくるんですか。いつもの仲の悪さは何処に行かれたんですか、本当に。

「…分かりました、信じましょう。ですが、何故同時に告白する必要があったのでしょう?あなた方、普段はとてつもなく仲が悪いというのに…」
「僕が見ていないところで紅音ちゃんがこいつに取られるなんて嫌だったからだよ」
「私も同意見です。ですから、話し合ってこういう形に至ったわけです」
「まぁ、予想以上に紅音ちゃんが鈍感だったから苦労したけどね」

私が悪いみたいな事を言われたのですがこれは私が悪いのでしょうか?
前触れも無く突然告白してくる方も悪いのでは…と声には出さず。

「それにしても本当に告白されたと分かった割りに冷静ですね」
「え、普通は焦ったりするものなのですか?」
「多分僕の元で長年働いてるから感覚が麻痺してるんじゃないかな…」
「原因は貴方ですか。このスケコマシ」
「まさかこんなにも麻痺してるなんて思わないじゃないか」
「あの、別に麻痺はしていないと思いますので勝手に話を進めないでください。そしてもうついでですので、ごめんなさい」

「2回も振られた?!しかもついで?!」

勝手に進められ、話についていけなくなる前に止めに入る。
更には振る。
だって誰かさんがまともに働かないお陰で私の暇が無いですし。恋愛してる暇などありもしません。何より、恋愛に興味が無い。

「誰かを好きになることも無ければ付き合うこともございません。私は白澤様がまともに働いてさえくれればそれで幸せなのです」
「聞いた?ねえ。僕の方が好きなんだって」
「そんなこと一言も発言していらっしゃらないので自慢しないだください」

鬼灯様と白澤様が睨み合う図の完成。
あぁ、この図がとても落ち着けるのは今だからこそなのだろうか。
この隙に逃げてしまおう。

思い立ったらすぐ行動。
お二方の隙を伺い、完全に二人の世界に入ったと同時に私は避難と言うなの逃亡をしました。
どうやら気付かれること無く逃げることに成功したようです。だって追い掛けて来ないですし。

仕事も残ってますし桃源郷へ戻りますか。
何事もなかったかのように私は帰路につく。

私が居なくなったことに気付いて白澤様から電話が掛かって来たのは私が桃源郷に着いた頃でした。
どんだけ喧嘩してたんだ、というツッコミは置いときます。



fin.

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