鬼徹

□待ち合わせ
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「…遅いです」
「ごめんごめん、用が長引いちゃって…」

今日は私が非番の日。
何故か白澤様と一緒に出掛けることになりまして。
待ち合わせをしていたのですが10分の遅刻。
まぁ、予想はしていました。
普通に衆合地獄に行くところを目撃してしまったので。
ちょっとシロさんに呼ばれたので不喜処地獄に行く途中で。

そのくせ、私に誘ってきた時の言葉、皆様にお教えしましょうか?
「紅音ちゃん、紅音ちゃん。たまには僕とデートしない?ていうか、してくれない?」ですよ?バカにしてんのか、このクソ。
おっと、つい口が滑ってしまいました。発言はしておりませんが。

「怒る時間さえ勿体無いので早く行きましょう。何処に行くのですか?」
「そうだね。そっかぁ、紅音ちゃん、そんなに僕との時間を大切に思っててくれてたんだね」
「は?何を仰っているのですか?ふざけないでください。私の時間が勿体無いんですよ」
「素直になれない紅音ちゃんも僕は好きだよ」
「あー、何故貴方は神獣なのですか」
「え、なにそれどういう意味なの」

このままじゃ埒が明かないと思い、何処に向かうかも分からず私は歩を進める。
すると、白澤様もついて来てはリードしてくれる。

どうやら行き先はデパートのようだ。
天国のデパートは色々いいのがある。まぁ、私は滅多に行きませんが。
だって、白澤様の面倒を見るので忙しいので。

ですが、何故デパートなのでしょうか。
当然ながら誘ってきたのは白澤様なので考えはよくわかりません。
更には現在、何故か手を繋いでおります。
いや、別に構いませんが。

「白澤様、何かお探しの物でもあるのですか?」
「んー?違うよ。あ、でもあるかもね。紅音ちゃんに似合う服っていう物が」
「え?」

白澤様の発言に軽く驚く。
私に似合う服とはどういうことなのでしょう。
最初からそのつもりだったのでしょうか。
よくわかりません。

「紅音ちゃん、これとかどう?着物とかそんなに着ないでしょ?」

いつの間にか連れて来られていた女物の着物店。
白澤様の趣味からなのかどうなのか、極楽満月での衣装はチャイナ服。
中国関連で私服もチャイナ系が多い私は着物類など一着も持ち合わせていません。

「白を基準とした爽やかな色、紅音ちゃんにとても似合うと思うんだよね」
「って、ちょっと。何勝手にカゴの中に入れてるんですか。私欲しいなんて一言も」
「今日くらい甘えてよ。いつものお礼とお詫びなんだから」
「……そうやって他の女性に売り上げの7割を貢いでるんですね」
「えー?なに?嫉妬?」
「何故そうなるのですか」

白澤様にそう言われればもう吹っ切れてしまいました。
好きなようにしてくだされば構いません。
ですが。何故こんなにもカゴの中がいっぱいなのでしょうか。

「…次から次へと…」

迷わず気に入った服をカゴの中に入れていく白澤様。
流石に申し訳なくなってくるのですが。

「ていうか、あの、今更ながら私試着してないのですが…」
「あぁ、サイズなら大丈夫だよ。女の子のサイズなら見ただけで分かるし、何より極楽満月の制服、僕が手渡した物だろう?」
「あ…そうでしたね…」

若干引きました。
ていうか、完全引きました。
もうあとはお任せしちゃいましょう。

そう思い、私は白澤様に許可を貰い、休憩所へと移動する。
するとそこには。

「あれ、鬼灯様?」
「紅音さん」

鬼灯様が座って居られました。
どうぞ、と隣を指されたので失礼する。

「ここで会うなんて…珍しいですね」
「本当ですね。買い物ですか?」
「あー…なんというか、付き添い…みたいなものですかね」

私がここに来ている理由を簡単に説明する。
すると予想通り、呆れ果ててしまいました。
鬼灯様にも聞いてみたところ、お香さんの付き添いだそうです。

お香さんとは何度か会話したことがあります。
店に薬を買いに来たりするもので。
とても美人で大人っぽく、色っぽい。優しい感じのお姉さんって感じです。
私実は、少しお香さんに憧れていたりします。
あんな風に美人だったらなぁ…と。

そんなことを思いながら鬼灯様と他愛のない会話をしていると背後から声が聞こえる。

「ほんと、お香ちゃん可愛いんだから。その簪も絶対似合うって。僕からのプレゼントだよ」
「うーん…本当に貰っちゃっていいのォ?」
「いいのいいの!」

一体あのクソは何をしたいんでしょうかね。
人の休日に誘っておいて、私そっちのけでナンパですか。いや、まぁそっちのけなのは私が離れたから仕方ないのかもしれませんが。

今まで感じたことのないモヤモヤとした気持ちが私の心に渦巻く。

「…紅音さん、大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫ですよ。すみません、心配掛けてしまって」

いつの間にか俯いてしまっていた私を心配して下さった鬼灯様に苦笑を漏らす。
どうしたものかと思いつつも私は立ち上がり、鬼灯様に挨拶をする。
私の足は背後に居られる白澤様の元へ。

「用は済みましたか?」

お香さんにお辞儀をし、白澤様に問う。
すると笑顔で「うん、お待たせ」と。両手いっぱいに袋を持って。

「お香さん、鬼灯様なら彼方に居られます。白澤様、すみませんが私は先に帰らせていただきます」

返事も待たずに歩を進め出した私に「え?!ちょ、ちょっと待ってよ!」と慌てて追い掛けてくる白澤様。
私のことなど放っておいて好きなだけ女遊びすればいいのに、と思う。
あれ?何故そんなことを思うのでしょう。何時もなら止めているのに。

自分の心が理解出来ない。自分の考えが理解出来ない。一体何があったのでしょう。

「紅音ちゃん?どうしちゃったのさ。鬼灯の奴に何か言われたの?」
「違います。ついてくるのなら黙って歩いてください」
「えー、だってそんな紅音ちゃん見たことないし、心配だよ」

よくもまぁ、そんな言葉を軽々と。
心のモヤモヤと共に苛立ちさえも覚えてきている。
本当、私どうしちゃったのでしょう。

「ねえ、何か悩みがあるんなら僕に打ち明けてみない?何でも聞くからさ」
「うるさいです。悩みなんてありません。もう放っておいてください。荷物なら私が持って帰りますので好きなだけ遊んできてくれて構いませんよ」

白澤様に優しくされると余計苛立ちが募る。
早く一人になりたい、この方から離れたいという願望を丸出しにしてしまっている。
こんなの、私らしくもない。

「…もしかして。紅音ちゃん、嫉妬してる?」

私の発言に白澤様の驚いた顔。
私からしたら白澤様の発言に驚きます。
嫉妬?何故私が嫉妬などするのですか?

「僕がお香ちゃんと居たからヤキモチ焼いたんじゃないかな、と思ったんだけど…」

違った?と私の顔を覗き込んでくる。
もし、本当に嫉妬だとしたら、あのモヤモヤとした気持ちもこの苛立ちも説明がつく。

「……そうなのかもしれませんね」
「えっ」

私が肯定すると思ってなかったのでしょう。
先程よりも驚かれた白澤様はあわあわと慌て始める。

「嘘、本当に?ごめんね?ばったり会ったからついでだし、一緒に買い物してただけなんだ」
「…簪、プレゼントしてましたね。誰彼構わず相手に似合ってると思うとプレゼントするのですね」

言いたくないのに出てくる言葉。
一度動き出したら止まるということを知らない。
こんなこと、初めてだ。

「白澤様から誘ってくださったので休みも返上してここまで着いて来たというのに結局女遊びですか。私が居る必要あります?無いですよね?」
「ごめん」

ごめん、その言葉と共に私は白澤様の腕の中。
要するに、抱きしめられました。わざわざ荷物を置いてまで。
突然のことで混乱してしまった頭を整理する。

「白澤様…?」
「まさか君が嫉妬してくれるなんて思ってなかったよ。何時も呆れるばかりで結局は許してくれる紅音ちゃんに甘えてたのかもしれない。そうだよね、紅音ちゃんとデートしてるのに他の女性と居られちゃ嫌だよね」
「え、デート?デートのつもりは…」
「僕からしたらデートなんだよ」

ぎゅっと抱きしめられながら優しく囁いてくれる白澤様。
この状況にも少しずつ慣れてきて混乱も収まりました。
モヤモヤした気持ちと苛立ちも。

「確かに、お香ちゃんに簪をプレゼントしたよ。でも、君へのプレゼントの方が遥かに多いんだ。数の問題じゃないかもしれないけど、さ」

あぁ、私って単純なんだな、と改めて思い知らされます。
もうすっかりどうでもよくなってきました。

「白澤様、すみませんでした。もう大丈夫です」

離してもらうよう促して白澤様の腕から解放される。

「白澤様のおかげですっきりしました。ありがとうございます」
「お礼を言われることなんて何もやってないよ?怒られてもいいくらいなのに」
「いえ、怒りませんよ。さ、帰りましょう。思い出しましたが、午後からはお仕事がありますでしょう?」

効果音にげっ、という音が似合う表情を浮かべつつ荷物を手に取り極楽満月へ帰るべく私達は歩を進めた。



嫉妬とは、こういうものなのですね。
勉強になりました。





fin.

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