鬼徹

□盂蘭盆地獄祭り
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季節は夏。
本日は盂蘭盆地獄祭りと云われる夏祭りが名前の通り地獄で開催されています。
折角のお祭りなので見て回りたいという気持ちもありますがそうはいきません。
私達、極楽満月で働いている者は出店をしているので。

今年は茶粥を売っております。
白澤様は相変わらず女性の客に甘いです。
本来200円の茶粥を100円で売るくらい。
商売として良くないのですが…説教は後でしましょう。

私は今、お使いを頼まれ人(?)混みの中を掻き分けつつ歩いている。
白澤様は桃太郎さんに頼んだのですが、白澤様と二人で店番は精神的に疲れそうだったので交代してもらったのです。

「それにしても…思っていた以上に多いですね…」

あまりの混み合いに酔ってしまうのではないかと思いつつも目的の物を手に入れる為に進む。
目的の物と言っても食料なのですが。
お腹が空いたから何か買ってきて、とのことです。
何でもいいらしいのですが、何でもいいというのが一番面倒臭いのをあの方はわかってらっしゃるのでしょうか。

「あっ、すみませ…?!」

ふと、俯いた瞬間。前に居た方とぶつかってしまい慌てて謝りました。
ですが、その方は般若のお面を付けてらっしゃったので驚きを隠せませんでした。

「紅音さんじゃないですか」
「え…」

般若のお面を付けていた方は私の名を呼んだ。
よく見れば見慣れた格好の鬼。そう、鬼灯様でした。

「…随分、祭りを楽しんでらっしゃる様ですね」
「そりゃあもう。来たからには楽しまなければ」

鬼灯様は般若のお面以外にも綿あめ、ヨーヨー、金魚すくいですくったであろう金魚などを手にしていました。
思っていたより子供っぽい部分もあるんですね、と感心。

「紅音さんもお一人ですか?」
「あ、はい。お使いを頼まれまして」
「……それは」
「白澤様にです」
「やはりそうですか」

白澤様が来ている事に関して思い切り嫌そうな顔をしているのですが敢えて見て見ぬフリをしましょう。
それにしても、本当お互いがお互いを嫌いますね。面白いほどに。

「紅音さんがよろしければ共に行動してもよろしいですか?」
「いいですよ?」
「ありがとうございます。この人混みの中紅音さん一人というのは危ないので」

ここまで一人で来たので危ないもどうも無いと思うのですが、ここはお言葉に甘えましょう。

「何を頼まれたのですか?」
「食べ物です。お腹が空いたらしくて。何でもいいと言われたのですが何にしようかと…」

面倒臭い奴ですね、と悪態をつく鬼灯様。
それに関しては私も同意見ですが。

「では行きましょうか」

少し悩んだ素振りを見せたと思えば何処かを目指して歩き出した。
はぐれない様にと鬼灯様の後を追う。

「あいつの苦手な食べ物とか無いんですか?」
「そうですね…聞いたことないです」
「チッ…」

今普通に舌打ちしましたよ、この人。
いや、構わないんですけども。

「桃太郎さんも居るんですよね」
「はい。…って、ちょっと鬼灯様?そんな、いいですよ!」

ボーッとしていた頭は鬼灯様の声でハッとした。
彼はというと適当に見繕ってくださっていたのです。
手には既に焼きそば、たこ焼き、イカ焼きなど。王道な物ばかり。逆に王道な物の方が有難いですしね。

「これくらいあれば大丈夫でしょう。紅音さんはお腹空いてないんですか?」
「え、あれば食べますし無いなら食べなくても大丈夫程度です」
「そうですか。…それなら、こちらを差し上げます」

鬼灯様から手渡されたのは真っ赤なりんご飴。
悪いから、と一度断ったのですが押し付けられました。

「あの、鬼灯様。代金…お支払いします」
「大丈夫ですよ。後で白豚に倍返ししてもらいますのでお気になさらず」

最初からそれが目的だったのですか。
なんというか、流石ですね。

一応、温かい食べ物ばかりなので温かいうちに、と私と鬼灯様は極楽満月の出店へ急ぐ。

「白澤様、桃太郎さん、お待たせしました」
「大丈夫だよ、お使いご苦労様…って、何でお前が居るんだよ!」
「紅音さん一人に頼むバカが居ますか。女性なのですよ?」
「いや、鬼灯様違うんです。私が行きたいと申し出たんで白澤様は何も…」
「…紅音さんに免じて許しますが、こちら。代金は倍でお返しください」
「何で倍なんだよ!」
「あ、でもまだ温かい…そして結構ありますよ、白澤様」
「だからってなんで倍で返さなきゃならないのさ!しかもこいつに!」

鬼灯様も白澤様もお互い嫌っている割にはよく絡みます。
何なんでしょう、これが例のツンデレというやつなのでしょうか?
言い争う鬼灯様と白澤様を見て誰も止める気配は無い。それは止めても止まらない事がわかっているからです。

出来ればもう少し離れたところでやっていただきたいものです。
店周辺でやられてはお客様が買いに来れないですし。
そう思いながら鬼灯様に頂いたりんご飴をペロリと舐める。

あ、これは美味しいです。

「白澤様食べないのですか?要らない様なら桃太郎さんが全て食べてしまいますよ?」
「あっ、要る!僕も食べるから!」
「では店前で言い争いはやめてください。商売の邪魔です」
「…わかったよ」
「白澤さん、後ほど請求書をお渡ししますのでよろしくお願いします」
「何?!結局倍返しなのは変わらないわけ?!」

もう素直に諦めて払えばよろしいのに。
どうせ有り金のほとんどを女遊びで使っているでしょうし、それならこのくらいの請求容易いでしょうに。

「あ、鬼灯様。よろしければ1杯如何ですか?」
「茶粥、ですか。そうですね、頂きます」
「ありがとうございます。200円でございます」
「紅音ちゃん、400円でいいよ。こっちも倍返しにしてやればいい」
「白澤様は黙ってご飯でも召し上がっていてください。商売の邪魔です」
「この短時間で2回も邪魔扱いされたんだけど?!」
「ざまぁみろ、白豚」

鬼灯様を前にすると黙るということを忘れるのでしょうか、このクソ上司。
口でも縫ってやりましょうか。

まぁ神獣相手にそんなこと、怖くて出来ませんが。


そんなこんなで時刻は0時前。
亡者が帰ってくる時間が迫ってます。
獄卒の皆さんはメインステージへと向かって行きます。
もちろん、鬼灯様も。

「今年も獄卒は大変そうだね」
「何かやるんですか?」
「送り火の日で亡者達が現世から帰って来るんです。でも、帰りたがらない亡者も当然居るので、その亡者達を引き戻しに行くのが獄卒方の毎年の役目なんです」
「そうだったんですか…シロ達…大丈夫かなぁ…」

簡単に説明をするとシロさん達の心配をする桃太郎さん。
仲間思いで良い方です。

獄卒の皆さん。頑張ってください。






fin.

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