三星記

□ナイルの憂鬱
2ページ/7ページ


「(ウカナスさんのバカー。先輩がナイルの知らないところで女の人と会うわけがないのにー!)」


ナイルは班長がいれば「いつから俺はお前の許可がないと女と会えないんだ」と突っ込んできそうなことを考えていた。


ナイルが向かっているのは第2研究室。
そこは戦争用の戦車・重火器・武器・その他を開発・研究しているところである。
扱っているものが危険物なため危険区域になっている部屋でもある。
その部屋に入るには許可書を提出し同伴者を連れるか、中の作業員からIDを貰わないと入ることができない。
IDを持つ者は限られていて、所有者は両手で数えるれるほどしかいない。
同伴者が必要なのは第2研究室が危険物を取り扱う危険区域だけだからではない。
中で作業をしている、実質たった一人しかいない作業員兼主が危険人物だからと言うこともある。

そんな危険区域にナイル一人が行けるのは、彼女が数少ないIDの所有者だからだ。
そして第2研究室の主は班長やナイルの旧友でもある。


第2研究室は人通りの少ない薄暗い廊下にある。
ナイルは何度か来たことはあるが、ライに頼まれない限りここに来ることはないのでこの研究室も主にも会うのも久しぶりだ。

ナイルは持っているIDを扉の横にあるパネルに翳す。
IDを認証したパネルはピピッと音を立て「パスワードをどうぞ」と促した。

「あぅ…“キューベル様は天才”」


ピピッ「認証しました。」

そしてガチャと音がしてドアのロックが解除された。
因みにこのパスワードはこの部屋の主、キューベル・ハイスが考えた。

他にも「キューベル様は素晴らしい」「キューベル様は世界一の発明王」など。
……とにかくキューベルを誉めればパスワードは認証される。

IDは限られた人間が持てるのではない。
心の広い限られた人間にしかあのパスワードを言えないのだ。
部屋の主自体はIDなど欲しければいくらでも喜んで渡すのだが、パスワードがパスワードなだけに誰も受け取っては貰えないのが事実だ。


ともあれ、ナイルは中に入った。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]