短編.夢 本置き

□拍手集
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あれから私はベッドから出て、銀さんと思われる人をテーブルにつくように促した。
どうやら銀さんと思われる人は洗面所から来たようだ。
半開きになった扉の隙間を見ると、洗面所から自室まで水で濡れて道のようになっていた。
とにかく、拭こう。
少し待っていて欲しいと断りを入れて廊下まで出る。
洗面所まで行き、貯めてあった綺麗なタオルで軽く床を拭く。
洗濯機に濡れたタオルを入れようと再び洗面所まで行くと水音がした。
「あれ?」
洗面台の蛇口から水がちょろちょろと流れている。
普段蛇口を開けっぱなしにすることないのに、と不思議に思いながらも蛇口を締める。
そして、銀さんと思われる人のためにも二、三枚タオルを持って行った。
「えっと、あの……タオルです」
私はぎこちなく銀さんと思われる人にタオルを渡した。
ベッドにいる時は気が付かなかったが、彼はビショビショに水で濡れていたからだ。
洗面所から来たのは分かったが実際どうやって来たんだろう、そんな疑問が浮かんだ。
「あ、あぁ」
銀さんと思われる人もぎこちなく私の渡したタオルを受け取り、髪や手足を拭く。
何と言うか、水も滴るいい男とはこのことか……って、いかんいかん!!何を考えてんだ私は!!
レイヤーさんかもしれないじゃないか!!
そっくりさんかもしれないじゃないか!!
むしろ、勝手に家に入って来たんだから犯罪者!!
でも、私はどこの誰かも分らない、しかも変態かもしれない人にタオル渡しているなんて……。
「とりあえず、椅子に座ってください……話でもしましょう」
私は銀さんと思わされる人へ椅子に座ることをすすめた。
何と言うか、自分で言ったのに自分が物凄く冷静だ。
でも、話ってなんて話せばいいんだ。
自分で言っておいてその先は考えて今なかった。
ちゃんと考えてから発言しよう、うん、明日から。
銀さんと思われる人をちらっと見た。
銀さんと思われる人はゴシゴシとタオルで体を拭いている。
もしこの人が変態とかなら、普通警察に通報するかすぐ逃げるかなのに、やっぱり知ってるからか、知ってるって言うか漫画の中の銀さんと言うか、いや、でも目の前にいる人が銀さんだとは限らないし。
私は銀さんと思わされる人が椅子に座ったのを確認すると向かいの椅子に同じように座る。
見慣れたテーブルと椅子がパッと明るくなった気がした。
「えっと、まずはお名前教えてください」
「俺の名前は坂田銀時……って、俺の名前呼んでただろ、さっき」
ぶわっと冷や汗が出たような気がした。
え、あの時の声聞こえてた……地獄耳っすか。
坂田銀時なんだ、この人。
なんか信じられないって言うか、さらっと答え過ぎて逆にびっくりできない。
確かに見た目は完全に坂田銀時だけどさ。
「本当に、本当? 証明できるものは?」
「証明って……免許証とか?」
「まぁ、その、証明できればなんでも」
銀さんと思われる人は着流しの中をごそごそと探り始める。
次にズボンのポケットを探る。
どうやら免許証を探し出せないでいるようだ。
「あ―……証明できるものが、ない」
銀さんと思われる人は手をひらひらと振り、へらっと笑う。
そもそも、免許証を出されたからと言って、坂田銀時の存在を信じられるだろうか。
しょうがなく、次の手を考えた。
「じゃあ、これからする質問に答えてもらいます」
「はぁ……」
「誕生日は」
「十月十日」
「身長体重は」
「え、それって大事?」
「いいから答えて」
「多分177pだった気がする……体重はこの前銭湯で測った時は65sだったか」
「職業は」
「歌舞伎町で何でも屋をやってる。依頼と報酬があれば猫探しから浮気の探偵まで、なんでも」
「ほ、本当に!?銀さん!?本当の本当に!!万事屋やってるあの銀さん!!」
私は興奮が抑えきれなくなり、椅子から立ち上がってテーブルをバンバンと叩いた。
銀さんは若干引いているが気にしない。
この人が本物の銀さん……マジでか!!
まさにこれがホントのマジでか!!
銀さんだよ、万事屋銀ちゃんだよォォォ!!!
それが今ここにィィィィィ!!!!
「俺が俺ってことは分かっただろ……なぁ、教えてくれ、ここは何処なんだ?俺は何でここにいるんだ?」
「マジで銀さんだァァァァァァ!!!!キャッホォォォォォォ!!!!」
「……って、聞けってオイィィィィィィ!!!!!」
そんな銀さんの声は私の興奮によってかき消されていた。
私はただ、この目の前の感動に浸っていた。
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