トワイライト

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次の日、雷門に顔を合わせられず、しばらくの間だけ身体を横にした。
そして夜になってからリハビリ程度として身体を動かす為にサッカーボールを持ち出して、洞窟を後にした。


ぽーんと跳ねるボールの感覚を感じる。これなら、身体も自由に動かせる。しばらく、歩くと見覚えのある後ろ姿が見えた。


「菜花?」

「あ、レイン。身体はもう大丈夫やんね?」

「ああ。お前、一人で何をしているんだ?」

「しぃー!静かにするやんね」


菜花黄名子に注意され、黙り込んだ。異なる時間から来ている事は分かるがそれ以上は正体不明と指摘されている。観察していると菜花が別の視点を向けている。その先にはフェイとあの子供の恐竜がいた。


「フェイが気になるのか?」

「…うん。ほっとけないんやね」


菜花を背後しか見ていなく、彼女がどんな顔をしているかは知らない。だが声は寂しそうだった。


「…アイツは親に嫌われて一人ぼっちだと聞いた。俺にも似た境遇だったから痛いほど、分かる」

「…レインも親に?」

「俺の場合、物心つく前からずっと施設にいたから、親の顔すら覚えていない。けど…どうしても捨てられないモノがあった」

「捨てられないモノ?」

「絵本だ。施設に預けられた時に一緒に入ってたらしい。俺にとって辛いモノだったけど、どうしても捨てられなかった」


捨てられず、何度もヨレヨレになるまで絵本を読み返した。独りだった時、仕方なく寂しさを紛らわすために読んでいたが今思えば、きっと親が迎えに来る事を心の何処かで信じていたのかもしれない。


「そして俺は…親友と出逢い、サッカーを知った。だから寂しいなんて思った事はなかった。だから、フェイは心配することはない」


アイツにはもう、信頼出来る仲間がいる。俺と同じくと、静かに言うと菜花は俺に視線を向けた。


「優しいやんね。うち、何となくフェイがレインが大切なのか分かるやんね」

「別に俺は…」

「ねぇ、うちも時雨って呼んでいい?」

「あ、ああ…」

「うちの事も黄名子って呼んでやんね」


笑顔で言われ、俺は頷くことしか出来なかった。


「ありがとう、時雨!」


一瞬、黄名子の笑顔がフェイに似ていた。




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