四季のへぼ小説 壱

□夜の匂い/ダテサナ
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「………眠れなさそうだな…今夜は…もう」
軽く寝癖のついた髪を撫でつけながら布団から出て、部屋の隅に寄せておいた酒を取るために立ち上がる。
今夜は思いの外頑張り過ぎたから早く寝たいんだが……

(多分、いや、絶対に無理だな。)
縁側で、取ってきた酒をちびちびと飲みながら溜め息をつく。
あんな夢を見てしまっては眠れるはずもなく、酒を飲むくらいしか出来やしない。




あの夢はついこのあいだ追放した母の怨念だろうか。
…それとも死んだ弟の恨みか。



どちらにしても、今更どうすれば良いのか分からない話だ。
俺を殺そうとした母との関係が元に戻る訳もないし、母との事についての責任をとらせて切腹させ、死んだ弟が生き返る事なんか更にありえない。

それは分かる。
分かるのだけれど、つい…その妙な考えが本当になったら……と思ってしまう。
俺らしくも無く、なんて女々しい考えだ、と思うとズキズキ頭が痛む。
「Ha……俺も弱くなったもんだな…」
庭を明るく照らす月を眺めてつぶやいた。


無いはずの眼が痛む。
母に忌み嫌われたこの眼が存在を俺に示すようにじわじわとした痛みを伴うのだ。
あれほど嫌われても、どうやらこの眼は未だに母が好きらしい。
だから母を追放した俺に文句を言ってくる。


……ふざけんな、と思う。
ついでに阿呆だとも感じた。

あれだけ虐待に近いものを受けてきたくせに、まだあの女を信じているこの眼が嫌いだ。



―――実際、あの人を何故か信じてしまっているのは俺自身だと言うのに。



「はぁ……」
溜め息をついて、また酒を飲む。
丸い月が、綺麗だ。
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