短編

□私の唯一
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所変わって大きな城の一室
寝衣を纏った男が月を肴に酒を飲んでいた
そこに音も無く一人の女が現れる
彼女は男の前に跪くと頭を下げた


「只今戻りました」

「あぁ、仕留めたか?」

「はい」


女の返答に男の口角が上がる


「御苦労。今日はもういい」

「畏まりました
御前、失礼いたします」


もう一度頭を下げて女が退出しようとすると男がそれを引きとめた




「待て、仕事はもういい
酌をしろ」


言葉と同時に目の前に突き出される銚子

女はふっと纏う空気を和らげてそれを受け取った
するりと男の隣に移動し、空になっている杯を酒で満たす


「奥方様の元に戻られなくてよろしいの?」

からかう様な笑みを浮かべて問うと同じような笑みが返ってくる

「何時寝首を掻かれるとも分らぬ相手と閨を共にはできん」

「あら、酷い
奥方様がお可哀想」


言葉とは正反対にくすくすと笑って男に擦り寄ると肩を抱かれた
身を任せるように軽く体重をかける

肩に置かれた手が身体の線をなぞって腰あたりまで移動し、そのまま緩やかに撫でられる
その手に自分の手を重ね、鼻先が触れてしまいそうなほど近くにある相手の顔を見上げた


「ふふ、奥方様やご側室様を放って、私ばかり相手にしていらっしゃると何れお世継ぎに困りますわよ」

「お前が産めばいい話だ」

「私は忍
生んだ所でお世継ぎには成りえませんわ」

「構わん。お前が忍びだろうが俺の子には違いない」

「まぁ、他の者は納得しませんわ」


くすくすと笑っているとそれを遮るように唇が落ちてくる




「もう黙れ」



互いの唇が触れるか触れないかの距離で囁かれ、再び始まる激しい口づけ
目を閉じてそれに酔っているうちに背中が床に触れた
ゆっくりと手が己の肌を滑る


「ぁ…ちょっと…ここで?」

「黙れといったはずだ」


それだけ言って再開される行為


「…ん、もう…仕方ない方…」


女は小さく笑い、男の首に手を回してそれを受け止めた






許されない恋ですって?
それぐらい言われなくても分ってる

(でも、止めようなんて思わない)
(この方が望む限りはこれでいいのよ)
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