短編
□心の内
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御簾ごしに爽やかな笑顔を浮かべる従兄弟に、自分も負けじと笑顔を返す
「御機嫌よう、姫
今日はめずらしい唐菓子を手に入れましてね
是非姫に、と思い参上したのですよ」
「…まぁ、ありがとうございます
でもよろしいのですか?私なんかが頂いて
恋人に差し上げたほうがよろしいのでは?」
「私にはそんな相手もおりませんので」
「あら、つい最近もどこぞの姫君と噂になっていた方のお言葉ではありませんわね」
「…私のことより姫は如何なされるのですか?そろそろ年頃でしょう」
にこにこにこにこにこにこにこにこ…
ひたすら笑顔を貼り付け、厭味の応酬
この男との会話はいつもそれだ
小さな頃は私の事を姉のように慕っていて、とても可愛らしかったのに…
一体何時からこんな厭味ったらしい女たらしの男になってしまったのだろう?
引きつりそうな口元を何とか耐えて言葉を返す
「ふふふ、ご心配をおかけしてしまいました?問題ありませんわ、何人かの殿方から声はかかっておりますので」
「…ぇ?」
しばし沈黙
ん?おかしいわね
いつもなら追い討ちをかけるように厭味が返ってくるはずなのに…
首をかしげて御簾の向こうを伺うが相手は黙り込んだまま
どうしたのかと口を開きかけると先に彼が言葉を発した
「・・・ご結婚されるのですか?」
「え?えぇ、まぁ…」
「何時?」
「え、まだはっきりとした日取りなどは決めておりませんが、近いうちには…」
「近いうち…年内に?」
「まぁ、そうなるでしょうね
私もそろそろ嫁がなければならない年ですし…」
「その声をかけていらっしゃる方々の中から?」
「えぇ、おそらく
父がなんと言うかにもよりますが…」
「父上の言うとおりになさると?」
「?まぁ、父には逆らえませんもの」
「そうですか・・・」
聞くだけ聞いてまた黙り込む彼が本格的に心配になってきた
どうしたんだろう?体調でも悪いのか?
聞いてみようとした途端、彼はいきなり立ち上がった
「…すみません、急用を思い出しましたので今日はこれで失礼いたします」
「え?あ、ちょっと…!」
言うが早いか去って行った彼に、その時の私は首を傾げるしかなかった
彼との結婚を父から勧められたのは、その数日後の話
彼が何を考えているのかわかりません
(は?結婚?)
(なんでいきなり…?)