翠の桜

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※このお話は短編の『心の内』に修正を加えたものです
短編をお読みになった方は読み飛ばしていただいても構いません





お父様方が戻られてしばらくしてやってきた、御簾ごしに爽やかな笑顔を浮かべる従兄弟に自分も負けじと笑顔を返す


「御機嫌よう、姫
今日はめずらしい唐菓子を手に入れましてね
是非姫に、と思い参上したのですよ」

「…まぁ、ありがとうございます
でもよろしいのですか?私なんかが頂いて
恋人に差し上げたほうがよろしいのでは?」

「私にはそんな相手もおりませんので」

「あら、つい最近もどこぞの姫君と噂になっていた方のお言葉ではありませんわね」

「…私のことより姫は如何なされるのですか?そろそろ年頃でしょう」


にこにこにこにこにこにこにこにこ…

ひたすら笑顔を貼り付け、厭味の応酬
この男との会話はいつもそれだ

ほんと、一体何時からこんな厭味な女たらしの男になってしまったのだろう?

引きつりそうな口元を何とか耐えて言葉を返す


「ふふふ、ご心配をおかけしてしまいました?問題ありませんわ、何人かの殿方から声はかかっておりますので」

「…ぇ?」


聞き取れるかどうかの小さな声が上がり、しばし沈黙が流れる

ん?おかしいわね
いつもならすぐさま厭味が返ってくるはずなのに…

首をかしげて御簾の向こうを伺うが相手は黙り込んだまま
どうしたのかと口を開きかけると先に彼が言葉を発した


「・・・それは、ご結婚、されるという意味ですか?」

「え?えぇ…」

「何時?」

「え?まだはっきりとした日取りなどは決まっておりませんが、近いうちには…」

「近いうち…年内に?」

「まぁ、そうなるでしょうね
私もそろそろ嫁がなければならない年ですし…」

「その声をかけていらっしゃる方々の中から?」

「えぇ、おそらく
父がなんと言うかにもよりますが…
あぁ、兄も何か考えがあるようですので二人の意見ですかね?」

「お二人の言うとおりになさると?」

「?まぁ、逆らえませんもの」

「まだお相手が決まったわけではないのですね?」

「えぇ、どうやら父も兄も思うところがあるらしいので」

「そうですか・・・」


聞くだけ聞いてまた黙り込む彼が本格的に心配になってきた

どうしたんだろう?体調でも悪いのか?

聞いてみようとした途端、彼はいきなり立ち上がった


「…すみません、急用を思い出しましたので今日はこれで失礼いたします」

「え?あ、ちょっと…!」


言うが早いか去って行った彼に、その時の私は首を傾げるしかなかった

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