翠の桜

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「御機嫌よう、姫
貴女からお招きくださるなんてめずらしいですね」


いつもと変わりない胡散臭い笑みを浮かべてやってきた従兄弟
だが、私はいつものように振舞う余裕はない

彼が座るのとほぼ同時に本題を切り出した


「どういうおつもりですの?」

「何がです?」


表情を変えない業平殿
若干苛つきながら言葉を続ける


「惚けないでくださいな
昨日、貴方との結婚を父から勧められました」

「・・・あぁ、そのことですか
いえ、私も叔父上に頼まれて仕方なく、ですよ」

「父の話ですと貴方から申し出だとのことでしたが
父だけでなく兄まで説得されたとか」

「…ちっ


・・・え?
え、今の音…


「それがどうかしました?」

「はい?」

「えぇ、そうです
私が叔父上達を説得しました
それがなんです?」

「え、なんですって・・・」

「貴女は先日、お父様の決めた方と結婚する、と仰った
だから貴女のお父様を納得させたのです
何か問題でも?」

「え、え?」

「あぁ、貴女に拒否権はありませんよ
叔父上達も私なら、と大層乗り気でしたしね」

「ちょ、ちょっと・・・」

「と言う訳で、貴女も覚悟を決めてください
ご用件はそれだけですか?
では私は少し用事がありますのでこれで失礼します
また伺いますのでそれまでに心の準備をなさっていてくださいね」


私の言葉も聴かずに一方的に言い切って立ち上がる業平殿
何か言おうとするのだが、何を言えばいいのかわからず、ただパクパクと口を開閉させるだけで終わってしまった




「約束を破るなんて許しませんよ」





去り際に残した彼の言葉の意味は、よく理解できなかった

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