短編

□立場の苦しみ
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隣で眠る男に軽く唇を落とし、散らばった自分の着物を身にまとう
男を起こさないようにそっと褥を抜け出して部屋を後にした




部屋を出て自室に向おうと足を進める
ふと、前方に気配を感じて目をやり、そこに佇む人影に足を止めた


それはあの方の“特別な位置”に座る事を許されながらも“特別な人”になることを許されなかった女性

嫌悪、殺意、嫉妬、羨望・・・
負の感情をありったけ詰め込んだかのような眼で此方を睨み付ける彼女に、とびきりの笑顔を返してやった

瞳に広がる負の感情が更に濃くなる
それだけでは止まらず、口をギリッと噛み締めた

普通にしていれば“美しい”と形容される顔が醜く歪む

何だかそれが酷く滑稽で愉快に思え、くすりと笑いが漏れた

気に食わなかったのか、ますます顔を歪める彼女

愉快ではあるが、自分もそろそろ自室に戻りたい
そう思うと急に興味が失せ、足を進め、変わらぬ視線を向ける彼女の横を通り過ぎる




「身分をわきまえてはどうかしら
殿にあまり近づかないで」




すれ違いざまに吐き捨てられた言葉は、興味が失せてもなお笑いを誘う程度の面白みはあった
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