短編

□優しさが痛い
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栄華を極めていた平家一門
今では源氏に押され、衰退してしまった
その一門に生まれ、婚期を逃していた私の夫となったのは源氏の将である源義経様でした


「姫、今日は月が美しい
月見酒をしよう」

「…かしこまりました」

酒を持って義経様より少し後ろに座すと彼は苦笑する

「隣に来い」

「いえ、私は・・・」

「それ程恐縮しなくともよいだろう
お前は俺の室なのだから」

「・・・はい」


おずおずと隣まで移動し、差し出された杯を酒で満たした



これは普通の結婚ではない

私は父から彼に押収された機密文書を取り返すようにと命を受けている
それだけではなく、源氏の捕虜となっていた父は私を通して義経様の舅になることで未だに京に滞在し続けているのだ

完全なる行き遅れでたいして美しくもなく、その上捕虜の娘であったこの私

第三者から見ても策略だらけであるこの婚姻を、この方が了承した理由は私には分らない


「どうした?何か悩みでもあるのか」

「え…いえ、そのような事は」

「愁いた表情をしている」


言葉と共に手が伸びてきて顎を掬われた
私を見つめる真っ直ぐな瞳
居たたまれなくなってそっと身を引いた


「どうした?」

問われて正直に答えることも出来ず、言い訳を探す

「・・・出すぎたことを申しますが…
御正室様の元にお戻りになられた方がよろしいのではないでしょうか
私が此方に来てから、ずっと此方にお出でです・・・」

言ってから内心焦る

本当に出すぎたことだ
可愛げのない事を言ってしまった…

反省して目を伏せる
頭上で軽く笑う気配がした

恐る恐る顔を上げると優しげに目を細める義経様


「申し訳ありません
出すぎた事を申しました・・・」


謝ると気にするなと言うように頭をぽふぽふと撫でられる
そのまま優しく抱きしめられた


「お前は何も気にしなくていい」


言い聞かせるように耳元で囁かれ、顔が近づいてくる
私もゆっくりと目を閉じた


もういい年である私を大切に慈しんでくださる義経様
私を今まで育ててくださった父上



私は一体どうすればいいのでしょう
(優しくしないでください)
(身動きが取れなくなってしまうから)

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