短編

□無茶苦茶な人
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始まりは今から七年前の事でした
私の元にやってきた彼は当然切り出してきたのです

「遣唐副使に任ぜられた」



驚きましたよ
いくら小野妹子の子孫だとしても、まさか自分の恋人が唐の国に行くことになるなんて思いませんもの

ですが驚いているだけではどうにもなりません
違う国に行くのですからもちろん長い間会えなくなってしまいます
しばらくの間はそれが辛くて泣いていましたが、なんとか送り出す決心をつけました


今思えばその決心は無駄だったんですけどね


それから二年後、出発の挨拶に来た彼を涙をこらえて見送りました

しかしそれから十数日後、彼は何事もなかったかのように私を訪ねてきたのです!

驚く私に彼は渡航が失敗したと告げました
さらにその翌年、彼は再び出発しましたが、また渡航が失敗して帰ってきたのです

二度目は何だか言いようのない気分になりました…


まぁ、ここまでなら彼に非はありません
寧ろ気の毒なくらいでしょう

問題はここからなのです

更にその翌年、彼はもう一度出発することになっていました
でも彼はそんな素振りは全く見せず、いつも通りに私の元にやってきます

私は不思議に思いながらも特に詮索せずにそれを受け入れていました

ですが、とうとう出発前夜になっても彼は何も言いません
流石におかしいと思った私は彼に尋ねました


「明日、ご出発になられるのですよね?」

「ん?あぁ・・・」


気の抜けた返事に私はますますわからなくなって眉間に皺を寄せます
それを見ていた彼は、可笑しそうに笑うだけで何も言いませんでした

そしていつもと同じように私を抱き寄せ、甘い甘い夜を過ごしました



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日

私が目覚めたのは日が高く昇ってからでした
寝過ごした私は大慌て
そりゃそうです、彼を見送ることが出来なかったのですから

何てことをしたんだと自分を責めていると、いきなりふわりと後ろから抱きしめられました

驚いて振り向くとそこには唐に旅立ったはずの恋人の姿


「え!?な、なんで!?」


思わず叫んだ私に向って、彼はニヤリと笑って言いました


「俺は病だ」


言われたことが全く理解できませんでした

・・・は?
病気?誰が?

目が語っていたのでしょう
彼がもう一度口を開きます


「俺は病だ」

「・・・え?」


病?彼が?

私の頭は疑問でいっぱいです
彼が病にかかっているわけがありません
だって彼は昨夜までいたって普通に私と過ごし、いまだってこんなに楽しそうな笑顔を浮かべているのですから

困惑する私を見て、彼は一つ一つ説明を始めました
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