短編

□無茶苦茶な人
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庭を眺めている私を、誰かの腕が囲います
振り向かなくてもわかる、慣れ親しんだ温もりと香り


「何をしてるんだ?」

「貴方が遣唐副使に任ぜられていた頃を思い出していたの」


私の答えに彼は笑みを浮かべました


「確か大使に腹を立てて仮病を使って断ったんだったな
懐かしい」

「懐かしがることじゃないわ…
その後大変だったじゃない」


そう、その後、彼は大人しくしていればいいのにそうせず、なんと天皇を怒らせて流罪になったのです


「昨年、お許しが出て戻ってこれたからよかったけど…
もうあんなことしないで頂戴ね?」


少し怒って見せると彼はまた笑います


「どうだろうな、約束は出来ん」

「もう!そんな事言わないで!」

「そんなことより…」


そんなこと、で片付けられてしまいました
結構大きなことだと思うのですが・・・


「昔の事よりこれからの事を考えろ
俺と共にある未来を」


満足げな笑みを浮かべてそう言われ、私は黙り込んでしまいました

確かに、昔の事よりこれからの事を考える方が有益かもしれません
・・・なんだか釈然としませんが

考えていることが顔に出ていたのでしょうか?
彼が笑って私の頭を撫でます


「これから先、何が起こるかはわからん
前のようなことをしないと約束も出来ん
だが、これだけは約束できるぞ」


スッと大きな手が私の頬に触れ、顔が近づいてきます

唇同士が触れるか触れないかの位置でいったんとまり、甘い甘い言葉が吐き出されました


「これから先、お前を手放すことはない」



私の恋人は不思議な人です
(ただ一つはっきりと分ることは)
(彼が私をとても愛していてくれるということ)
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