翠の桜
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今日は満月
彼がやってくる日
「覚悟なんてそんなに簡単に決まるわけないじゃない…」
呟きは虚しくも夜の冷たい空気に解ける
覚悟を決めるどころか、先日見た夢で悩みが増えた
しかし私の気持ちなど無視するかのような女房達にあれやこれやと用意を整えられ、私は今、自室に座っている
落ち着くことが出来ず、手に持たされた扇を玩ぶ
くるくると回していると衣擦れの音が聞こえてきた
人の気配が徐々に近づいてくる
それは私の部屋の前で止まった
「御機嫌よう、姫君」
几帳の向こう側からいつもより少しだけ優しげな声がかかる
「・・・ご、機嫌、よう」
緊張しすぎて声がふるえた
微かに笑う気配
「そちらに行っても?」
「ぇ、・・・あ、はい」
答えるとすぐに彼はこちら側にやってきた
私の前に座し、目を合わせて問いかける
「覚悟は決まりましたか?」
「・・・」
だからそんなに簡単に決まるわけがない
それにあの夢…
一人で悩んでいても答えなんて出てこない
思い切って聞いてみよう
決意を固め、ぎゅっと扇を握りしめて口を開いた