翠の桜

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ふわふわとまどろむ意識の中で二人の子供が仲良く遊んでいる
男の子の方は顔がよく見えないが、女の子は私の幼い頃と顔が同じ

どうやら私は夢を見ているらしい

これは確か、私がまだ子供だった頃
今からたぶん…十年近く前の夢



『ねぇ』
『ん?なぁに』
『私、来年あたり裳着の式をやるのですって』
『もぎ?何?それ』
『大人になるということよ』
『姫が大人になるの?』
『えぇ、そうよ
おめでたい事らしいわ』
『ふーん、おめでとう!』

無邪気な声でそう告げる男の子
しかし幼い私の表情は曇る

『…ありがとう』
『どうしたの?うれしくないの?』
『・・・ねぇ』
『うん?』
『私に会えなくなるのは、イヤ?』
『え?うん、イヤだ』
『裳着はね、結婚する為の準備だそうよ
それをを終えるとね貴方にも会えなくなるんですって』
『え・・・?』
『大人になったら幼馴染といえど、殿方に会ってはいけないらしいわ』

私の言葉で男の子が黙り込んだ

『・・・』
『御簾や几帳越しならたまには許して下さるそうだけど・・・寂しくなるわね』
『・・・』

彼の様子に気が付いた私が首をかしげる

『?どうしたの?』
『・・・ゃ、』
『え?』
『イヤだ!!』

いきなり叫んだ男の子
私は目を丸くする

『え・・・?』
『会えなくなるなんてイヤだ!!!結婚しちゃダメ!!!』
『え…』
『約束したのに!!僕のお嫁さんになるって!!!』

そう言って男の子は勢いよく立ち上がり部屋を出て行ってしまった
私は呼び止めるために彼の名を呼んだ

『業平殿!!』

「業平殿!!」


自分の声で飛び起きた

唖然と今見た夢の内容を思い出す


「約束…結婚・・・?」


確かにそんな約束をした相手がいたのはなんとなく覚えている
だが約束の相手は全く覚えていなかった

その相手が・・・


「業平殿、だって言うの・・・?」


一人で口にした疑問の答えは、当たり前ながら返ってこなかった

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