短編

□もはや宿敵
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一人の女が夜空を見上げている
ここはその女の邸
住人は彼女一人

のはずなのだが・・・


「やぁ、御機嫌よう」

「!?!?」


後ろから声をかけられて慌てて振り向く
そこに居たのは一人の男、彼女の天敵である安倍晴明だった


「な、何故貴様がここに居る!?」

「貴女に会いにきました」

「結界はどうした!?
この邸は私以外は入れないはずだぞ!」

「私を誰だと思っているのですか?」

「なっ!」


問い詰められてもあわてず騒がず
笑みを浮かべたまま答える晴明に思わず女の方が口ごもる

確かに彼は当代一の陰陽師・安倍晴明
彼女の張った結界を破るのなんて容易いだろう
わかってはいるが、こんな風に人をつけ回す一歩間違えれば犯罪者みたいな男に劣っているなんて認めたくない


「勝手に人の邸の結界を破るな」

「ちゃんと元通りにしてきましたよ?」

「そういう問題じゃないだろう・・・」


がくりと項垂れる女
男は楽しげに笑う


「・・・もういい
何のようだ?」


諦めて問いかけると男はにやりと意味深な笑みを浮かべた
女の顔がひくりと引きつる

この男がこの笑い方をした時は大抵頭の痛くなるようなことを言い出すのだ
つい先日も妻になれと滅茶苦茶なことを言われたばかり


「知りたいですか?」

「・・・いや、」

「実はですね」

「いい!言うな!!」


慌てて止めるが男は気にせず続ける


「夜這いに来てみました」

「はぁ!?!?!」


爆弾発言に女が大声を上げた

よばい・・・
ヨバイ…
夜這い!?


「いえ、どれほど口説いてみてもいい返事をもらえないので強行突破してみようかと思いまして」

「ふふふふ、ふざけるな!」

「おやふざけてなんか居ませんよ?」

「余計たちが悪いじゃないか!!」

「元はと言えば貴女が是と言わないからでしょう」

「言うわけないだろう!いい加減諦めろ!!」

「イヤですよ」


しばらく言い合いが続く

埒が明かないと判断した晴明は、怒鳴る女をグッと抱き寄せ己の唇で彼女のそれを塞いだ


「…」


何が起こったのか解らず固まる女
晴明は唇を離し、艶やかに微笑む


「今日はこれで許して差し上げますよ
夜這いはまたの機会に」


そう言い置き、未だに固まる彼女を残してその場を後にした



女が再び動き出したのは、半刻ほど経ってからのことだった




本当に何なんだあいつは!?
(い、今のは口付けか!?)
(あ、あれがそうだなんて私は認めんぞ!!)

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