翠の桜

□2.5
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「何を言い出すかと思えば、当たり前のことを…分からないのですか?」


呆れたように言うと、彼女はむっと唇を尖らせる


「分からないから聞いているんです」

「少し考えれば分かる事でしょう」

「分からないから聞いているんです」


形のよい眉を寄せて同じことを繰り返す彼女と目を合わせ、言い聞かせるような口ぶりで話しだした


「私が今までした事を考えてみてください
子供の頃の約束を叶えるために、今まで一人の妻も持たず、貴女のもとにこまめに顔を出しました
最後には叔父上に頼み込んでまで貴女を妻にしたのですよ?
…もう分かるでしょう?」


彼女はだまって首を振る
思わず顔が引きつった

・・・ここまで言っても分からないと?
いつも私と話している時は腹が立つほど頭が回るのになぜ今分からないんだ?

頭の中で毒づくが、そんな事をしていても仕方ない


「ここまで言えば分かってもよさそうなものですが・・・
仕方ないですね」

溜息をつきながらそう言うと表情がパッと明るくなった

「教えて下さるんですか!?」


期待に目を輝かせて此方を見る彼女
その様子に思わず言葉が詰まる


「・・・」

「?どうしたんです?」

「い、いえ、何でもないです
つまりですね、私は・・・」

「私は?」

「私は・・・」


“私は貴女をずっと昔から慕っていたのです”
言おうとしているのに、言葉が口から出てこない

顔が徐々に熱を持ってくる


「私は・・・」


・・・言えない
駄目だ。恥ずかしい。


「業平殿?大丈夫ですか?お顔が真っ赤ですが・・・」


小首をかしげて心配そうに顔をゆがめ、自分を下からのぞきこむ姿にとうとう耐えられなくなってしまった

音を立てる勢いで顔をそらし、立ち上がる


「え?業平殿・・・?」

「体調がすぐれないので今日はこれで失礼します」


戸惑う彼女にそれだけ言い置いて部屋をでる


駄目だ
好きだなんて今更言えない
恥ずかしすぎる
大体何なんだあの人は
可愛すぎるだろう…


部屋を出て少ししたところで立ち止まり、悶々とそんな事を考えた



彼女に私の思いが通じるのは、まだ先になるのだろう

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