翠の桜

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月が昇る頃、彼はやはりやってきた

それはまぁいいのだが、彼の様子がおかしい
結婚前のように私をからかうでもなく、最近のように私を甘やかすわけでもない


「・・・」
「・・・」


対面して座ったまま沈黙が続く

気まずい…
何か話さなきゃ


「「あの…あ、」」

「な、なんですか?」

「いや、たいしたことでは…貴女からどうぞ」

「え、いえ、業平殿こそ・・・」

「いえ、私も大したことではありませんので
貴女からどうぞ」

「えっ、と…」

「「・・・」」


・・・気まずい!!

どうしようもないこの空気を換えようと何か話題を探す


「な、業平殿」

「はい」

「いつから私のことを慕ってくださっていたのですか?」

「・・・え?」

「・・・あ」


わ、私の馬鹿!!
いくらなんでもそんな核心に触れること聞いてどうするの!?


「あ、い、いや、そうじゃなくて・・・」
「いつ…?」


慌てて取り繕おうとする私を遮り、言葉を発した業平殿
彼の妙な雰囲気に思わず口をつぐんで身構える


「いつ、と聞きましたか?」

「え・・・」

「やっと気が付いたかと思ったら今度は何時からと?
どれだけ鈍いのですか貴女は」


呆れたような、怒ったような声音で言われ、むっとして言い返した


「鈍くなんてありません!失礼です!」

「いや、鈍いです」

「そんなことありません」

「あります」

「ありません」

「ありますよ」

「ありませんって!」

「「・・・」」


じとりとお互いに睨み合う

しばらくそれを続けていると、そんなことをしている自分が何だかおかしいような気がしてきて、つい笑いが漏れた

彼を伺うと同じく少し微笑んでいる


「何がおかしいのですか?」

「貴女こそ、何を笑っていらっしゃるんです?」

「笑ってなどいません」

「いや、笑ってました」

「業平殿こそ笑っていらっしゃったでしょう」

「笑ってません」



本当に何の意味もない言い合い

それを続けているうちに、あれ程どうすればいいのか悩んでいた夜はあっけなく更けていった

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