翠の桜

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月が空高く昇り、草木も寝静まるころ
いまだに続いていた内容のない言い合いに、終止符を打ったのは彼の方だった


「…そろそろやめましょうか
きりがない」

「そうですわね…」


そう告げてほぅと息を吐き出す

湧いてくるのは少しの疲労感と大きな満足感

ただ言い合いを続けていただけなのにとてもすっきりとした気分だ
今まで溜まっていたものが全てなくなった気がする

こんな気持ちになるのはずいぶんと久しぶり

思い返してみれば結婚前は彼と過ごした後はいつもこんな気持ちになっていた

私はそれが楽しくて・・・

楽しくて?

・・・

あぁ、そうだったのね…


「業平殿」

「なんです?」

「私、貴方とこんな風に過ごす時間が好きみたいです」

「え・・・」

「貴方も、私と過ごす時間が好きだから、私を慕ってくださったのでしょう?」

「えぇ、そうですね」


かえってきた肯定の返事に笑みがこぼれる


「やっぱり!でしたらこれからも今まで通りにしませんか?」

「・・・は?」

「結婚してから私たち、少し様子がおかしくなってたでしょう?
だからそれをやめにして、前までのように振る舞うの」

「・・・」

「ね?そうしましょう?その方が楽しいもの」


笑顔を浮かべたまま返事を待つ
ぽかんとしたような表情を浮かべていた彼はしばらくして手を額に当てた


「まったく…貴女という人は・・・」

「?」

「・・・もういいです
長期戦は覚悟の上だ」


そう呟いて額から手を放す
出てきた表情は呆れたような、悲しんでいるような、それでも少し楽しんでいるような、何とも複雑なものだった


「あ、あの・・・業平殿・・・?」


伺うように声をかけると彼はその表情を消し、いつもの笑みを浮かべる


「いえ、私事ですよ
さて、そろそろ眠りましょう」

「え?あ、はい・・・」

「おやすみなさい」

「はい…おやすみなさい」


二人並んで横になり、目を閉じる
何だかわからないけれど、私の提案は一応通ったらしい

とりあえず今はそれだけで良しとしよう

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