翠の桜

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『特別』


その二文字がぐるぐると頭の中を回る

私にとって、業平殿が特別…


確かに赤の他人と比べれば彼は“特別”だ
幼いときから知っているし、血の繋がりだってある
だが、お姉さまのおっしゃる特別とはそういう意味ではないのだろう


「とくべつ・・・特別」


確認するように呟いて、業平殿のことを思い浮かべた

彼といると楽しいのは本当
他愛もない会話が続くのが嬉しくて、憎まれ口をたたきながらも彼が訪ねてくるのを待ってい
る自分がいたことも自覚している

だけど、きっとそれだけじゃダメ
話していて楽しいというくらいならお姉さまにも言えること
業平殿が特別だという事にはならない


「特別・・・か」


考えれば考えるほどよく分からなくなってくる

口にするのは簡単
理解するのは難しい


「・・・ほんと、難しいわ」

「何がです?」

「何がって、それは・・・・ぇ?」


独り言のつもりで呟いた言葉に帰ってきた返事
それにまた普通に返事を返そうとして固まった

そこに立っていたのは悩みの種である人


「業平殿・・・?」

「何か悩み事ですか?聞くだけでよければ聞きますよ」


軽い調子の声
それでもこちらを見つめる瞳の色から本当に心配してくれているのだと悟る



とくり



胸が高鳴る音がした

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