たばこの煙
□マルボロ限定
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「よう、お嬢ちゃん。ひとりかい?」
薄暗いバーでこの言葉を何回聞いただろう。
私はうんざりして男の顔も見ない
「人を待ってるの。お酒の相手は他で探して。」
「んな冷たいこと言うなよ。
…大きな声じゃ言えないが、俺はこのへんのマフィアまとめててな…。」
聞いてもいない身の上話も、聞き飽きた。
こんな店で人を待たなきゃいけないなんて、盗賊稼業も大変ね。
「俺とくりゃ悪いようにはしねぇぜ?」
片眉をあげて囁くようすは腹が立つ。
いじめてやろうかしら なんて思うのは悪い癖。
「いやよ。お酒くらい一人で飲めるでしょ?」
「そりゃそうだがな、一人じゃできないこともあるんだよ。」
そう言うと、男は左手で私の髪にふれ、右手で二の腕をさする。
あぁ 気持ち悪い。
「いやって言ってるでしょ。
ブルースターなんて吸ってるような男なんて興味ないわ。」
「な…っ!」
ブルースター…。若者が試しに吸ってみるような安物のたばこ。
「マフィアを束ねてるやつがそんなの吸うわけないわ。」
「何を…こいつ…っ!」
目を見開いた男は腰に手をかける。
「その銃は使わないほうがいいわよ。」
「!!?」
「ここはあなたなんかよりももっと危ないおじさんたちが集まる場所だから、下手に打って敵をつくらないことね。」
「なん…だとっ!!」
「あら、マフィアって単語に敏感だから
もしかして本物のマフィアに自分の存在が知られるのが嫌そうだと思ったから言ったんだけど、ちがったかしら?」
「お、お前…。」
ああ 楽しいわね。
いい暇つぶしってとこかしら。
「おいそれぐらいにしてやれ。」
「「!?」」
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