*寄り道*
□新たな旅立ち
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地平線の夢を見る。
朝日が昇るような、沈むような。
「カテリーナ…」
その向こうに去っていく人。
待って
待ってよ
おいていかないで
「…っ!」
気が付くと、薄暗い部屋に横たわっていた。
かなり古いようで、あちこちがきしみ、シーツもボロボロになっている。
隙間から吹き込んでくる風は、潮のにおいがした。
そして、我に返った私はベッドから跳ね起きた。
(逃げなければ…!)
きしむドアを慎重に開ける。…よし。
「誰もいない…と思ったか?」
「・・・」
声のしたほうを振り返ると、私を連れ去った男が立っていた。
「ジャック…。なんで私の部屋で寝てるのよ」
「キャプテンだ。誰かさんが逃げようとするからだろ?この海の真ん中で」
この男は肩書を訂正する時だけ、少しイラつきを見せるものの、飄々としていて真面目なんだかふざけているんだかよくわからない。
「私は、カテ…やらなきゃいけないことがあるのよ!」
まっすぐ見つめていうと、男は全く動じずに視線をぶつける。
「ああ、そうだな。お前は誰かを探してる」
「あ、キャッ!」
突然腕をつかまれたと思うと、硬いベッドに押し倒されるように追い立てられる。
「なら、それを俺に話せ。力になる」
「・・・」
力を込めた言葉に押されて声が出ない私を、片眉を挙げて促す。
「私には、小さいころからずっと一緒だった姉がいるのよ…」
引き出されるように、口にした。
「婚約までした男に捨てられて、町を出て行ったわ…。たった一人で…」
じんわりと、涙があふれた。
「血はつながってないけど、大切な人だったのよ」
ジャックは、何も言わない。
やめればいいのに、もう止めることができない。
「だから、私が見つけ出すの。私がカテリーナのそばにいてあげるのよ。…愛なんて」
寂しそうに笑う唇を思い出す。
「愛なんて、どこにもないの…」
声が震えた。
ぐっと息を詰めてこらえていると、ふと温かい感触がほほに当たった。
見ると、ジャックが恐る恐るといった手つきで、私の涙をぬぐっていた。
そしてわざとらしく視線を泳がせていった。
「まあ、お前さんの気持ちっつぅか、旅の目的にとやかく言うことはしないけどな」
「?」
「それはちょいと…違うと思うぞ?」
意味を図りかねて瞬きする私にかまわず、立ち上がる。
「ジャック…」
「キャプテンだ」
ドアノブに手をかけて振り返る。
もう、女の涙に戸惑っていた跡形もない。
「呼び捨てにする仲になりたいなら、そう言え」
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