憂鬱少女ときれいな谷
□1話
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ムーミン谷に新しい春がやってきた日。
すこし冷たさの残る春の風がムーミンの家を吹き抜けていきます。
そこへ、ムーミンたちが冬眠から目覚めるのを待っていたトゥーティッキが、一人の少女を連れてムーミン屋敷のドアをたたきました。
・・・・・・・
「やぁ、トゥーティッキ。いらっしゃい。」
「ご無沙汰ですこと。」
「こんにちはムーミン、ムーミンママ。この冬はよく眠れた?」
この冬はぐっすりだったわ。と笑う声が、温かく響いていた。
「今日は紹介したい子がいるの。」
「紹介したい子?」
トゥーティッキは、背中に隠れた小さい女の子を前へ促した。
「バイオレッタよ。」
「こんにちは。」
バイオレッタは、落ち着いた声で一言だけ口にした。
「まぁ、可愛いお嬢さんだこと。」
「僕はムーミントロール。こっちはママと、上にパパもいるよ。」
バイオレッタは、よろしく。とだけ言って、促されるままに丸いテーブルに着いた。
白い湯気の立つ紅茶が出されてから、トゥーティッキはおもむろに口を開いた。
「今日は、ただ紹介に来たのじゃないの。ちょっと、相談に乗ってほしいの。」
カップでてのひらを温めながらゆっくりと口にする。
「なんでも言ってくれてかまわないのよ。」
ムーミンママが鷹揚に笑う。
うなづいたトゥーティッキの横でバイオレッタは無表情だった。
「この子は、呪われているのよ。」
思いがけない言葉に、2人の耳がぴんと伸びる。
「呪いって…いったいどんな呪いなの?」
ムーミンが恐る恐る聞いた。
反面、トゥーティッキとバイオレッタは静かに視線を落としたままだった。
「この子には、死の呪いがかけられているの。私たちは、年は取るし、いつかは死ぬものだけど、この子の寿命は私たちよりとても短いものにされてしまったのよ。」
信じられないような顔つきでムーミンママは尋ねる。
「一体どうしてそんな呪いをかけられてしまったの?」
トゥーティッキは静かに首を振った。
「生まれたときからみたい。可哀そうに気味悪がられて、ひとりぼっちだったの。」
悲しそうに目を伏せるトゥーティッキの隣で、バイオレッタは視線を動かさなかった。
「僕は、ひとりぼっちにしないよ。」
ぽつりとムーミンはつぶやく。
「僕や僕の友達は絶対にバイオレッタを1人になんかしない。」
はつらつとした声に、バイオレッタは一瞬表情をゆがめたが、トゥーティッキは笑みをこぼした。
「ありがとう、ムーミン。」
「とりあえず、クラリッサの所へ行ってみるのはどう?」
「森に棲んでる魔女ね。確かに、何かわかるかもしれないわね。」
「僕が連れて行くよ。」
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