憂鬱少女ときれいな谷
□5話
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私はドアノブを握りしめる感触を思い出していた。
丸いドアノブを握る。
すこしだけ冷たい、あの感触。
私の後ろには、ムーミンたちがついてきていた。
なぜこうなったのかは知らない。
ムーミンの一言で、こうなってしまった。
ああ、そんなことを思い出しているうちに家が見えてきてしまった。
「あれがバイオレッタの家?」
「そうよ。」
「まぁ、素敵なお家ね。」
フローレンはいつも明るくてゆったりした口調で話す。
これが女の子なのねって感じ。
さあ、いよいよドアを開ける。
手順どおりやらなくては。
ドアノブを握る。すこし冷たい。
そのままひねるとカチャ、と静かに音がしてかぎなれたにおいが鼻を突く。
「お邪魔しまーす。」
「なんだか殺風景な部屋ね。」
みんなを入れてお茶を出す。
お茶ぐらいあったはずだ。
お菓子もほとんど食べていないから余っているだろう。
それから、えっと・・・
「ねぇバイオレッタ。」
突然ムーミンの声がする。私は驚いて振り向いた。
「この時計はバイオレッタのもの?」
ムーミンが取り上げたのは古い目ざま日時計だった。
「ええ、まあ。もう使ってないけど。」
早起きができなくなってから家族にもらったアンティークの時計だが、時計より早く目が覚めたり、音が全く聞こえなかったりする尾で使うのをやめた。
以来、ほとんど役目を終えていた。
「本当?じゃあもういらないんだね?」
急に目を輝かせるムーミンを私はキョトンと見つめ返した。
「これ、ぼくがもらってもいい?」
何を言い出すのかと思ったらそんなことか。
「いいけど…。」
「ずるいわ、ムーミンばっかり。」
フローレンがむっと眉根を寄せると立ち上がって部屋の中を見回した。
「私も何かもらいたいわ。」
「僕はもっと高価なものがあればいいんだけどな。」
いつの間にかみんなが当たりを物色しだし、結局、ムーミンは先に行ったように目覚まし時計。
フローレンは紅茶のマグカップ。
スニフは不本意ながら青みがかったガラスの花瓶を持っていくことになった。
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