憂鬱少女ときれいな谷

□7話
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やあ、と片手をあげる人がいた。
足早に近づくと、わずかに微笑んだ口を開いた。

「バイオレッタ、ムーミンが何をするか聞いてるかい?」

「おさびし山の探検だって言ってたけど…。」

「ムーミンらしいな。」

結局いつもの日常で、彼は一番幸せなのだろう。
バイオレッタと並んで歩きながら、スナフキンは口元を緩めた。

ムーミン屋敷に着くと、ムーミンが嬉々として身支度を済ませていた。

「2人とも、待ってたよ。早く探検に行こう。」

テーブルでは、トゥーティッキが紅茶を飲んでいた。

「久しぶりね、バイオレッタ。」

見慣れた柔らかな笑みを向けた。

「久しぶり。」

言葉を継ごうと口を開きかけたとき、ドアが開く音がした。

「やぁ、皆さんこんにちは。ムーミンパパはいるかな?」

見慣れない男ではあったけれど、ムーミン谷の住人なのだろう。
反射的に、バイオレッタの体が硬くなる。

誰、と聞かれたらどうしよう。引っ越してきた理由をどう説明すればいい。

思わず後ずさるバイオレッタの前に、人が重なる。

「僕の後ろに、いるといいよ。」

そうささやいたスナフキンは、なにくわぬ顔で立ちなおす。
そこへ鷹揚な声が響いた。

「おや?今日はお客が多いな。」

「ああ、ムーミンパパちょうど良かった。こんなものが出てきたんだが。」

バイオレッタに気づかない様子の男は、手に持っていたカメラを持ち上げた。

「これはまたずいぶん古いカメラですな。…ふむ、だがまだ使えそうだ。」

そう言ってレンズを覗き込んだパパのカメラがスナフキンをとらえ、次いでバイオレッタをとらえたところで、「おや?」と声を上げた。

「バイオレッタ、顔色が悪いようだが?」

びくっと肩を揺らすバイオレッタにトゥーティッキが近寄った。

「大丈夫?具合がよくないんじゃない?」

「その子は?」

バイオレッタが応える前に口を開いたのはカメラの男だった。

「バイオレッタよ。この前話したでしょ?ここへ越してきた…。」

ああ、と合点が言ったようにうなずく。今まで隠れていたことも気にしていないようだった。

「昨日の夜は、ちゃんと薬を飲んで寝た?」

「ええ。」

「薬?」

血の気の引いた顔で首を縦に振るバイオレッタに、男は怪訝そうに眉を動かす。

「労働が足りないんだよ。俺なんか朝から晩まで働きづめだから、夜はストンと眠れるよ。」

「そういう問題じゃないのよ。」

「だいたいそういうのは気持ちの問題だろ?家に引きこもってないで踏み出すことが大事なんだよ。」

「それもそうかもしれないけど…。」

「まあまあ、お二人とも。」




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