たばこの煙

□マルボロ限定
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「遅かったじゃない。
たいくつだったわ。次元。」

「悪かったな、仕事が長引いちまって。」

現れた黒スーツの男、次元は男のほうを向く。

「お前さんもすまねぇな。
ホラ吹き野郎をいじめないようによく言って聞かせとくからよ。今日の所は勘弁してやってくれ。」

「ぷっ。」

思わず吹き出してしまう。
男は真っ赤な顔になってどこかへ行ってしまった。

「面白くなってきてたのに。」

軽く笑いながら酒をあおる。

「男がかわいそうに見えてな。」

そういった次元はどうやら今日は機嫌がいいらしい。

「仕事、うまくいったのね。」

「珍しく、女ぬきの仕事だったからな。」

「ふふ…。」

さっきまでの退屈だった気分が妙に華やぐのは酒がまわったからだろうか。

「お前さんは、男が嫌いか。」

「え?」

どうしてとたずねると

「あんな色男を簡単に足蹴にしちまうところを見るとな。」

「あぁ 別に男が嫌いなんじゃないわ。
たばこがきらいなの。」

「そういうな、傷つくじゃねぇか。」

今度は拗ねたように椅子にもたれる。

「違うわよ。私はね…」

「ん?」

グラスの氷がカランと音を鳴らす。

「マルボロしか好きじゃないのよ。」

「・・・。」

「あなたのにおいが、好きなのよ。」

「…アリサ…。」

声に反応すると、私が振り向くのを待たずにマルボロと火薬のにおいが私を包む。

「今夜はつきあえ。」



それは彼の、甘いプロポーズ ―――――



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