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□その楔を何と言う
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夜。見張りの兵くらいしか起きていないであろう時間に、彼を自室へ招いた。
いくつか話したい事もあっての行為だったのだが、テーブルに置かれた酒瓶を目にした途端に顔を思い切りしかめられた。
「…酒が飲みたいのなら1人で勝手に飲め」
「そう言うな、ジーカウェン。大体、飲む為に呼んだわけでもない」
「それなら別に用意する必要もないだろう。誘われる度に飲まされる身になってみろ」
「…お前、少し打ち解けてきたと思ったら毒々しいぞ」
文句を言うのも無理はない。明らかに寝る準備をしているところへ呼び出しにいったのだから。
「まあ座れ、それからだ」
無表情の中に不機嫌を垣間見せながら、ジーカウェンは渋々と椅子へ腰掛けた。
向かいにダンも腰掛けたが、やはり何度見ても見入ってしまう魅力が、彼にはあった。
思わずじっと見つめていると、視線に耐えきれなくなったのか、ジーカウェンが口を開いた。
「…ダン、俺は観賞用の植物ではないんだぞ」
「ん?ああ……すまない」
「話が無いなら帰る」
「待て待て、…双子の話って、聞いたことないか?」
「双子だと?」
少し興味を持ったのか、ジーカウェンは浮かしかけた腰を再び椅子へ下ろ
した。
「ああ。昔どこかで聞いた話だが、双子に生まれた人間は、別々に引き離して育ててもそっくりになる……らしいぞ」
「…だから何だ」
「例え引き離されたとしても、魂の繋がりは決して切る事はできないという話だ」
「下らんな…」
「そうかもしれん。だが、縁というのは、何もこの双子に限った事ではない」
切っても切れぬ楔。その繋がりを、人間は“運命”と名付けるのではないだろうか。
「例えば、私とお前のような、な」
にこ、と微笑んで、ジーカウェンの傍へ寄った。そのまま頬へ口付けると、彼は呆れたように溜め息を吐く。
「何だ、それだけか?」
「何がだ」
「その話をする為だけに呼んだのか、と」「別に、そうとは限らん」
唇がそのまま喉元まで移動すると、また溜め息を吐かれた。
「この変態隊長が…」
「酷いな……駄目なのか?」
「良かったな、明日は非番だ。……好きにするがいい」
そういえば酒は要らなかったな、と思いながら、ゆっくりベッドに押し倒した。