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□最期まで貴方といたいから Side:D
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目の前に座っていた恋人が、突然泣いているのを見て狼狽えない男がいるだろうか。
随分長い間こちらを見続けているから、珍しいと思い見つめ返した。すると、いきなり何の前触れも無く泣き出した。
何事かと、思わず抱き締めると、気づかなかったのか、しばらくしてから彼は驚いて私を押しのけた。鈍い音がして、後頭部に痛みが走った。
「い……いきなり、何だお前は!?」
「それは私の台詞だ!何故いきなり泣く!?」
「誰が泣いて……」
言いかけて、自分の頬に手を伸ばす。濡れているのに気付いたのか、またもや驚いていた。
「…泣いて、たのか?…俺は……」
「私の顔を見ていたら突然泣き出したんだぞ。……何があった?」
自分でも分からない、と言うように、彼は両手で前髪を掴んで頭を振った。
また、優しく腕で包み込んでやる。しばらくして少し気持ちが落ち着いたのか、身じろいで私を見上げた。
「…お前の中に」
「私の中?」
「感じるんだ。俺には…分かる。もうどうしようもない程根強く、縛り付ける力が」
そう言って、私の心臓の辺りに手をついた。
私の中に根付く力。サムネルシア軍に入った際に、体内へ注入されたブラッ
クエネルギーの事だろう。
「確かに心地良いものではないが……それほど体に支障はない。大丈…」
「大丈夫じゃないから言っているんだっ…!」
叫び、また私を押し退けた。本当にどうしてしまったのか、今日は驚いてばかりだ。
「お前はっ!いつだって、自分を傷つけて、他人ばかり気にかけて、俺がっ、どれだけお前を心配しているのかも知らないくせに!」
「ジーカウェン、落ち着いた方がいい。お前らしくない……ブラックエネルギーの事であれば、これはもう仕方がない事だろう?」
「お前に何が分かる!そうやって現実から目を背ける者が、無様に死んでいくんだろう!俺はっ……」
ああ、そうか。
全て分かっているのだな、お前は。
受け入れるつもりでいた。命も、その末路も、全てを。そう考えていたのに。
「……死んでほしくないんだ。お前に…」
揺らいだ決意をどうしてくれる。
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