小説その2

□お気に召すまま♪
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ぼそぼそと誰かの話し声が聞こえる。
ぼんやりと目を開けて、なんとなく額に手を当てるとひやりとしたものが触れた。
手に掴んで見てみると、それはカップに入ったみかんゼリーだった。ごろごろっと果肉がたっぷり入ってて上等な感じのやつだ。
なんでこんなものが額に乗っけられてるんだ……と絶句していると、尚もぼそぼそと話し声は続いている。

「…赤ん坊、この子変だよ。いつも自分からしてくるくせに、僕がちゅーしたら泡吹いてぶっ倒れたよ。」
「こいつはトロい上にダメツナだからな。脳が退化していってるんだろう。」
「可哀想に。でもある意味珍種だね。退化する脳を持ってるなんて。」
ふう、とヒバリさんはため息をついて、そして応接室の出口に向かった(らしい)。
「じゃあ僕は見回りに行くけど、その子起きたら回収しといて。またね、赤ん坊。」
「チャオチャオ、ヒバリ。」
そしてドアがバタンと閉まる音が聞こえた。



「リボオオオオォン! お前今度は一体何仕出かしたんだよおおおぉ!」
オレはがばっと跳ね起きると、目の前に移動していたリボーンに詰め寄った。
「今回は俺はなんにもしてねーぞ。いつもいつも俺のせいにすんじゃねぇ。」
リボーンはそう言うと、オレの頭をピコピコハンマーではたいた。

痛いんですけどっ! ピコピコハンマーなのに涙が出るほど痛いんですけどっ!

頭を押さえて唸るオレの目の前に、ずいっと携帯の画面が突き出される。
えっこれスマホ? スマホですかリボーンさん。しかも最新機種のやつだなんてアナタどんだけお金持ち? …いいけどね別に。
オレには縁の無さそうな高価なスマホの画面に、ムービーが再生されていく。

『やあ赤ん坊………?』
それはたまに良くみる(苦笑)風景、オレの部屋の窓から挨拶をするヒバリさん。だが何故か彼はリボーンに挨拶をしかけて、途中で止まっていた。
その黒曜石のような瞳が驚いたように見開かれて、そしてゆっくりと瞬きを繰り返している。

あー、やっぱりまつげ、長いなぁ。ちょっと尖った口が年相応で妙に子供っぽい。

『待ってたぞヒバリ。』
なんだか聞き覚えがあるような無いようなよくわからない声が響いて、ぎしり、とベッドがきしむ音が聞こえた。どうも誰かがオレの部屋のベッドから立ち上がったようだ。
『きみ………、今日は【そっち】なんだ。赤ん坊のせい?』
ヒバリさんは僅かに首を傾げて、若干嬉しそうな表情でそう言った。
『いやリボーンは関係ない。これはオレの意思だな、ウン。』
『そうなんだ、…ねぇ、じゃあ僕と闘おうよ。』
『いいぞ。ただし条件がある。』
フっと画面が暗くなった。さっきから喋っていた人物が携帯のカメラの前を横切っているらしい。

妙に見覚えのある服の柄だなあ。
うーんなんかオレがよく寝間着がわりに引っ掛けているTシャツっぽい。
それにあの後頭部、ツンツン逆立っている栗色の髪の毛…そしてうっすら見えるオレンジ色の炎。

………え?
窓に腰掛けたヒバリさんのほうを向いたその人の横顔は――オレ、正確にはハイパーのときのオレ、だった。

呆然としているオレを置いてきぼりにして、どんどんムービーは進んでいく。

画面の中のオレは、うっすらと笑いながらヒバリさんのほうへと身を乗り出して…。

ちゅっ。
音を立ててキスをした。


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