小説その2

□『夫婦』じゃないもんっ!
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俺は何人もいた愛人を綺麗に清算し、イタリアの大聖堂で派手に式を挙げた。
その時に半ば強引に唇を奪ったせいで、未だに雲雀は俺のことを鬼畜か悪魔だと思い込んでいる。
「結婚しているんだからその責務を果たせ」と存外に脅しをかけないと、おかえりのキスひとつしてくれないのだ。(キスといっても嫌々頬っぺにだぞ!)

しかも初夜の時には「寝床に入ってこないで。僕に触れるな。」と短刀を握り締めて叫ばれて、あきれ果てて顎が外れそうになった。
25にもなった男が何を生娘のような反応して…とは思うのだが、余りにも必死の形相をしている雲雀を見ているとどうにも脱力しきってしまって「……なんにもしねーから普通に寝ろ。まじで寝ろ。」と宥めすかして短刀を手放させた。

雲雀は驚いたように瞳をまん丸に見開いて俺の顔を見上げたあと、悔しそうに唇を噛んで俯いてしまった。
碌な抵抗をする暇もなく短刀を取り上げられたのが、死ぬほど癇に障ったらしい。
まぁ当然だろう。雲雀は確かにそこらの雑魚共に比べれば桁外れに強い。
しかし俺に言わせればまだまだひよっこだ。
俺がその気になれば、簡単に押さえつけてその身体を自由にすることなど造作も無いことなのだが――俺だって一応情けというものは持ち合わせているわけで。
悔しさに打ち震えている雲雀に、とてもそんなコトを仕掛ける気にはならなかった。

白い着物を着て肩を震わせている雲雀を幾分乱暴に抱き寄せると、もがく身体をぎゅっと抱きしめて「ほら、もう寝ろ。何もしねーから暴れるな。」と囁いた。
彼は全身を突っぱねて俺の腕から逃れようと色々あがいていたが、俺が腕の力を弱めることもなくずっと抱きしめていたら、やがて根負けしたのかおとなしくなった。

俺は職業柄どんな状態でもキッチリ睡眠は取れるクチなんだが、雲雀のほうは結局一睡もできなかったらしい。
翌日フラフラになりながら俺をキッと睨みつけていた。

以来、寝るときにはいつも雲雀が隠し持っている武器――それは短刀だったり、手錠だったり、トンファーだったりとそれこそ千差万別だったが――をまず取り上げてから寝床に着く、というのが習慣になってしまった。その後もがく雲雀を抱きしめるのも。


彼には良くわからないが自分ルールというのがあるらしく、自分から俺に仕掛けてくるときは正々堂々真正面から向かってくる。
決して料理に毒を盛ってみたり、後ろからこそこそ殴りかかったり、そういう不意打ちめいたことはしてこない。
寝床に持ち込んでくる獲物も、全部自衛の為にしか使う気は無いらしい。
まぁ、別に不意打ちされても反撃して更に押さえ込む自信はあるんだが。

日常生活に関しても「結婚したからには完璧にやり遂げる!」と決め付けているらしく、料理にはずいぶんと力を入れている。
反面他の家事はどうにも苦手なようで、風紀財団の社員何人かが持ちまわりでこっそり家事を手伝いにきていた。
雲雀自身は「手伝ってもらっている」という意識は無いらしく、「彼らがどうしてもやりたいっていってるからさせてあげているんだよ」と思っているらしい。
それを社員から聞いたときにはなんとも微笑ましくなったものだ。

だいたいコイツはしっかりしているようでどこか抜けている。
今のところは何にもしない清らかなおままごと夫婦で我慢してやっているが「結婚しているんだから夜の営みも責務のうちだ」と俺がツッコんだらどうする気なんだ。
「責務ならしょうがないね」と言ってお口でご奉仕とかしてくれたりするんだろうか。
…なわけ無いか。無い無い。ありえない。

あ〜ヤりてえな。こっちは何週間もお預けくらって修行僧みたいな生活させられてるんだ。
毎晩腕の中に美味しそうな身体が横たわってるってーのに、手ぇ出せねーなんて一体なんの苦行だよ。
かといって外で発散とか、ちょいとつまみ食いなんて気にもなれねーし。俺はこれでも案外惚れた相手には一途なんだぜ?

そう、はっきり言って俺がここまで譲歩して我慢しちゃってる理由は――ぶっちゃけ雲雀に一目惚れしたからなんだよ。悪いか!
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