小説その2

□花ならつぼみ 〜桜の下の天使の巻〜
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こちらはぴよこのたまご彩奈りおさまからリクエスト頂いて、書かせていただいた花ならつぼみ 〜天狗さまと小ちゃな天狐〜のシリーズです。今回も素敵な挿絵を頂いています。どうぞお楽しみください。




はるか北の氷の国で、雪のような翼を持つ天使のアラウディはふと目を覚ましました。
「ふぁ〜、よく寝た。」
う〜んと伸びをしてゆるりと背中の羽を広げると、真っ白な翼がぱたぱたと軽い音を立てました。
羽根が朝日の光を反射してきらきらと輝いています。

アラウディはゆっくりと翼を動かして、ひとりでに開いた窓からふらりと空に飛び立ちました。

ひとりぼっちで暮らしている彼には、時間の概念というものがあまりありません。
今回はなんと10年も寝ていたのですが、だれも教えてくれる人がいないため、アラウディがそれに気づくことはありませんでした。

氷の国はどこもかしこも氷で覆われた寂しい土地です。
だからこそ孤独を愛するアラウディはこの地を気に入っているのですが、外はたいそう寒く、また薄暗くて段々と気が滅入ってしまいました。
せっかく久しぶりに外に出たのに、これではあまり楽しくありません。
そこでアラウディはもっと暖かくて楽しい場所まで飛んでいくことにしました。


◆◆◆


並森山のお社の、そのまた奥には、神様が翼を休める泉があるといいます。
泉を守る並森神社に仕える神子の一人、ふかふかの耳としっぽの天狐のツナは、お使いの帰りに桜並木の綺麗なお山の側を通りかかりました。

桜の花は丁度見ごろの満開で、ひらひらと風に煽られた花びらが、緑の絨毯の上にゆらりゆらりと降り積もっています。
「ふわぁ〜、綺麗だな〜。」
ひときわ大きな桜の木が、まるでおいでおいでをするようにツナの目に映りました。
そのあまりの見事さに、ふらふらとツナは吸い寄せられるように木の根元に近づいていきました。

「あれっ?」
その根元には、先客がいたようです。
かなり長いことそこに寝そべっていたのか、その人の身体には一面桜の花びらが降り積もっておりました。
その人はこちらに背中を向けるように横になって、上に真っ白な毛布を被って寝転んでいました。
ふわふわの毛布は陽の光を浴びてきらきらと輝いていて、そこに桜の花びらがアクセントのように散っています。
あまりの美しさとふわふわさにツナは触ってみたくて仕方がなくなってしまい、そーっと近づいて手を伸ばしました。
「……ぅん?」
ぴくり、と真っ白い毛布と、毛布の下にいた人が身じろぎしたと思うと、むくりと上半身を起こしてきてツナをびっくりさせました。
「あっ、ご、ごめんなさい。毛布がふかふかで触ってみたくって…。」
「毛布?」
ちょっと首を傾げてこちらを見たその人の顔をみて、ツナはびっくり仰天しました。

「ヒ、ヒバリさんっ!!」
「? …うん?」

並盛神社で一番偉い天狗の雲雀と全く同じ顔をしたその人――アラウディは不思議そうな目線をツナに向けました。
アラウディ、という名前は、並盛を含む東の国の言葉に直すと『雲雀』となります。
実際自分の一族のことを総称してそう呼ばれたこともあったので、アラウディは目の前のこの子は自分のことを『ヒバリ』と呼んだのだな、と考えました。

ツナのほうはあんまりびっくりしすぎて、お使いのバスケットを取り落としてしまいました。
「ヒッヒバリさん、どうしちゃったんですか!? 髪の毛の色がすっごく淡くなってます!!」
「……そう?」
ふわぁ、と欠伸をひとつかみ殺すと、アラウディは自分を覆い隠すように広げていた翼をぱさりと振って舞い降りた桜の花びらを振り落としました。
先ほどツナが毛布だと思ったのは、アラウディの真っ白な雪のような翼だったのです。
「ヒッヒバリさん、毛布じゃなくて翼だったんだ…! でもでも、翼の色も薄く…っていうか、色が無くなっちゃってます!!あっちのお山に降った雪の色そっくりですー!」
雲雀は漆黒の闇のような髪と、淡い紫の翼だったはずです。今朝見かけたときは確かにそうだった…と、ツナはごくんと唾を飲み込みました。
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